「センター試験とアブダクティブな推論」

昨日、「授業改革先取りセミナー」の話の中で
アブダクションについて述べました。

そこで、今回は、
「先取りセミナー」の話の続きに行く前に、
ちょっと寄り道して、
センター試験における
アブダクティブな推論の
一例をあげておきたいと思います。

これは、数年前に私がブログなどで
述べた内容と重なるものであることを
お断りしておきます。

2010年の三角関数の問題です。

center-13.png

余角の三角比の公式なので、
考えるまでもなく答は①ですが、

これを、例えばxに0を代入して、
sin (シ)=1から求めることもできますね。

なんとも回りくどい、
公式を覚えていないとはけしからん、
十分性を担保しないから数学的ではない、
などと非難されそうです。

でも私は
「すべてのxでなりたつ」という構文から
「それなら、あるxでも成り立つ」と考え、
「じゃあ簡単な0を入れてみよう」
という推論が起きることは、
公式を棒暗記するよりも、
思考がまわっていると評価したいと思います。


次に2011年の集合と命題の
問題を取り上げましょう。

center-05.png

このような問題について
「裏技」と称して
次のような指導をする先生がいます。

「条件の問題は4択なので、
わからなかったら考え過ぎず最後にまわす。
時間がなくなった時はカンでマーク。
それでも1/4の確率で当たる」

私はこれを「裏技」とは思いません。
私が考える「裏技」を使えば、
瞬時に「十分条件」と予想がつきます。

それは裏技というより「常識」です。

命題「pならばq」が真の場合、
条件pを満たす真理集合は、
条件qを満たす集合に
包含されていなければなりません。

ですから、条件pと条件qが
述べている世界の大きさを比較すれば、
必要条件か十分条件か
アタリをつけることは可能です
(もちろん例外はあるので要注意)。

この問題ではq が「または」を含む
条件になっていることや、
pの条件式の不等式の向き(<)から見て、
(pの集合)⊂(qの集合)
つまり、p⇒q が真であることが
予想できるわけです。

極端な例をあげると、

「pでないかまたはqであることは、
rかつsであるための○○条件」

なんていう命題は、
明らかに仮定の部分が
結論を包含していると思われるので、
必要条件である
(少なくとも十分条件ではない)
と予測できるわけですね。

オマケとして、2008年の問題を、
「裏技」でやってみてください。
答は①です。

center-06.png

私がいいたい「裏技」とは、
命題「AならばB」において、
A,Bのどちらが部分でどちらが全体か
という視点に立って、
文脈から「または」「かつ」「補集合」
などの言葉を手繰り寄せながら
類推することです。

これは本質を押さえて勉強していないと
生じない発想であり、
見たことがない問題に対処するための
アブダクティブな方法論の一つだと思います。

今度は、2011年の数列の問題です。

center-02.png

この問題で解法技術を問う部分は、
前半では、「階差数列から一般項を求める」過程、
後半では、「等差×等比型の数列の和を求める」
過程のたった2つだけです.

これらは、いわゆる受験の定番問題なので、
多くの進学校では繰り返し行われているはずです。

ところが、全く手がでなかった
という受験生が多かったのです。

その原因は、問題の読解力にあると推察できます。


受験生に感想を聞くと、
「読んでいて意味が理解できなかった」とか、
「誘導に乗って、なんとか漸化式までは作ったが、
隣接3項間漸化式から一般項を導く方法が
わからなくてできなかった」
などというものでした。

この問題は、閉区間[1,2]から始めて、
区間の幅を1/4に縮めた縮小列を
次々作るということがテーマです(区間縮小法)。

ところが、問題文をよく見ると、
ynの漸化式の形から、
ynは等比数列であることがわかるので、
y1,y2の2項を求めれば
十分であることがわかります。


今度は2010年の数列の問題を見てみましょう。

center-08.png

anの差分(階差数列)が1次式なので、
anは2次式であることが予想できます。
すると、ローカルな範囲での類推を是とすれば、
次のようにして一般項求めることもできます。

center-09.png


次に、図形の問題からピックアップしてみましょう。

2013年の問題です。

center-11.png

この問題の全体像を見ると
特徴的なことがわかります。

それは「解答がすべて整数である」ということです。

そこでこの問題は、格子平面上への
図示だけで解決できるのではないか
という思いが浮かびます。

私は図のような格子平面を描いて解きました。

center-12.png

作図の手順は以下の通り。
① A,Bの座標をとる
② PとQの位置は計算することなく求められる
③ OPの垂直2等分線は、
 図の打点部分の長方形を90度回転すると
 斜線部分の長方形になることから簡単に描ける。
 同様に、PQの垂直二等分線も作図できるので、
 計算することなく2つの直線の方程式と
 その交点の座標がわかる。
④ 更に図から半径が5の円であることがわかり
 円の方程式が決定する。
 Rの座標は、中心から 3:4:5の
 直角三角形を描くことで求められる。
⑤ O,A,Rの座標からひと目で(3)の比がわかる。

実はこの図を示した段階で
すべて解答が終了しています。

分点の公式、垂直条件、連立方程式など、
式の計算を経由しないこのような解法は邪道でしょう。

しかし私は、このような問題を通して、
問題解決とは、前提となる条件から
論理的に推論を積み重ね、
結論にたどり着くだけではないことを
指摘したいと思います。

図や表によりイメージ化すること、
問題文の前後の文脈や、
全体象を眺めることで、
あちこちに転がっている手がかりを拾い集め
解を手繰り寄せること。
結論から逆に追いかけて、
矛盾なく前提と結びつけること。
など、特に初見の問題への対処として
必要かと思います。

見知らぬ道を歩くときも、
目の前の足元の一歩を
懐中電灯で照らしながら次の進路を決めるより、
目指すべき灯台や周囲の状況が
具体的にわかっていて歩く方が
意識も明確になるというものでしょう。

まだまだ、例示したい問題は
たくさんあるのですがこれくらいにしておきます。


以前、私のこのようなセンター試験の
分析を見たある先生から、
裏技的解法を否定するふりをしながら、
実は推奨しているのではないか
という鋭い指摘がありました。

私が強調したいことは、
やみくもに、センターの過去問パターンや、
裏技的手法を丸覚えしても効果は薄く、
肝心なのは、頭の引き出しにしまわれている
それらの断片に、適正にアクセスして
適応・応用させていく力が
あるかどうかということだと思います。

では、どうすればそのような力がつくのでしょうか。

例えば、センター試験に向かう前に、
受験生の裏技の常識として、
下の2つの三角形を覚えさせたいとします。

center-14.png

この2つの三角形に絡んだ問題を何度も演習し、
できるまで課題を与えたり、
再テストを繰り返すといった
トレーニング型の学習法だけで、
果たして定着されるものでしょうか。

センター試験の問題を解ききる力は、
似た問題をたくさんやったという
量に依存するものではありません。

ならば、18°や72°型の三角形について、
正五角形の作図法や黄金比の話題や、
18°と15°から、加法定理を用いれば
3°刻みの三角比の表が作れるという
歴史的な話など、
概念を補強する話題を取り入れた授業を
行うことで効果は期待されるのでしょうか。

私はそれにも否定的な考えです。

既存の知識が不足している中で、
面白味のある授業だけを繰り返しても
問題を解く技能が
磨かれていくとは思えないからです。

私がいいたいのは、センター試験への対策として、
パターン演習やドリル型の学習と
有意味学習を行うことは
決して二律背反ではないということです。

その両者はバランス良く融合すべきであり、
一方に偏る指導でなんとかなるほど
「センター試験は甘くない」と思うのです。

センター試験は、限られた時間の中で、
最大の力を発揮しなければならない、
ある種異常な空間で行われる競争試験です。

それを乗り越えるには
多くの解法パターンを身につけ、
素早く解く技術を磨くことは絶対に必要でしょう。

しかし、そのような学習法の蓄積が、
大局的に問題を俯瞰したり、
問題をメタ認知する力を産み出すかは別問題です。

むしろそれは、日々の授業の中で、
数学に対する向き合い方や、
知識を転移させる有意味学習が
展開されていることが大事ではないかと思うのです。





 

「授業改革先取りセミナー その①」

8月22日に千葉市のTKPガーデンシティで、
「授業改革先取りセミナー」が行われました。

これは、日本教育新聞社と
ナガセ(東進ハイスクール)が主催する
北海道から九州まで、全国12都市を
縦断して行われる、
大規模な高校教員対象の
授業力向上セミナーです。

千葉会場では200名を超える熱い先生方が
参加されました。


私は、全体講演と、数学教員に対する
講座を行いましたが、
ここでは、全体講演でお話したことを
まとめておきたいと思います。

少し長くなるので、3回~4回に渡って
ブログにまとめていきたいと思います。

今回の講演では、7月に
大学入試センターからリリースされた、
大学入学共通テストのモデル問題に対する
評価をして欲しいとのオファーを、
事前にいただいておりました。

どの問題を選ぶか迷ったのですが、
全体会では、数学以外の教員も多いので、
特に式の計算が少なく、
他の教科との関連性もある
「データ分析」の問題を
取り上げることにしました。

私はこの問題をかなり批判的に
分析しました。

そこで、まず冒頭にこのような話をしました。

新しいものを『良きもの』にするのは、
それを進めるイエスマンの存在や
忖度の文化ではない。

むしろ批判的な視座に立つ
カウンター勢力の存在が大切ではないか。

例えば、アクティブラーニングは、
最初は「ラーニングピラミッド」を伴って登場し、
「学習定着率を高めるための
スペシャルなメソッド」として語られていた。

それに対して、「活動在りて学びなし」
「ディープであることが必要」
等々の批判を受け、
それによって教科や校種や職種を超えて
学びを語る様々なテーブルができた。
その中で、タフな議論が進められ、
批判を乗り越えることによって、
「日本型」アクティブラーニングは
かなりオーセンティックな方向に
止揚されていったといえるのではないか。


などと、カッコいいことをいったわけですが、
実は話しをするときに、
目の前に、文科省の専門官の方が
おられましたので、
ちょっと気をつかったのでした(笑)

なにしろ私は、今回のモデル問題には
かなり辛口のコメントを用意していましたから。

では、本題に入ります。

次の図は文科省が提示している
「問題発見・解決のプロセス」です。

千葉図01

これは、だいぶ前にPISAが出した
「数学化サイクル」を
参考にしたものと推察できます。

「数学化サイクル」とは、
日常生活や、自然現象、社会現象に潜む
事象を数学の問題に定式化し、
それを数学の世界で解決し、
現実の世界にフィードバックするというものです。

今回の文科省が示したものは、
ちょっと欲張っていて、
更に、数学自体を掘り下げ、
統合・発展させ体系化していくという
もう一つのサイクルを持っています。

じゃあ、それを踏まえたとすると、
我々は何をすればいいのでしょう。

文科省のHPには、
次のような更に詳しい
ポンチ絵がアップされています。

千葉図02

様々な事柄が網羅されているのですが、
それらからポイントを抜き出して、
以下のように、私なりに
箇条書きにまとめてみました。

【問題発見・解決のプロセスと育成すべき資質・能力】
① 数と式、図、表、グラフを活用し数学的に処理する。
② 帰納、演繹、類推などによって論理的に推論する。
③ 批判的に検討し体系的に組み立てる。
④ 既習の知識と結びつけ概念を広げ、深める。
⑤ 統合的、発展的に考える。
⑥ 日常生活や社会の問題を数学化する。
⑦ 人と交流し合い説明したり理解し評価する。
⑧ 粘り強く問題の発見や解決に取り組む。


少し補足します。

そもそも人は、模範解答を
上から順になぞるような思考はしません。

それをするとすれば、
パターン化された解法を丸暗記し、
その数値などを少しいじったものを
解くことを繰り返すような活動の場合に
限定されるでしょう。

そうではなく、図やグラフ、条件や言葉、
式と計算がグルグルと循環しながら、
思考のゆらぎや混乱が起きる中で、
気づきが生まれ、それを解答として
表現していくものだと思います(下図)。

千葉図03

今後の大学入試でも、
そのような思考の流れを見るような
問いが立てられることが考えられます。

だとすれば、我々は、授業の中で、
このような思考を顕在化し、
表現させるような場を
設定する必要があるわけですね。

また、
「帰納、演繹、類推などによって
論理的に推論する」とありますが、
私はその「など」の部分に、
「仮説設定(Abduction)」
ということも入れておきたいと思います。

千葉図04

アブダクションについて
私の思うことを少し述べておきます。

私は昔、よくコンピュータの
プログラミングを行っていました。

通常は、アルゴリズムを考え、
フローチャートを作り、
それを言語(コード)化していくわけです。

これは演繹的な方法ですね。
でも、だんだん慣れてくると、
ある仮説をもとに、
とりあえず思ったことをプログラミングし、
それを実行したときに生じるエラーから、
プログラムを修正していく
という方法をとるようになります。

そうやって適宜修正をしながら
正解に辿り着こうという方法です。

つまり、アブダクションとは、
結論から逆追いしたり、
要求している答の形から仮説を立てて考え、
失敗体験から学んだり、という、
ある種俯瞰的な視点での
推論ともいえると思います。

今回はここまでにします。

次回はデータ分析のモデル問題を
見ていくことにしましょう。

 

「私の本棚 ~数学が大好きになるこの一冊~」

図書館前の「私の本棚」
第2弾も私が担当させていただきました。

今回は「数学が好きになるこの一冊」と題して、
私の本棚にある本から
とりあえず何冊かを持ってきて陳列しました。

数学本01LT

数学本02LT

数学本03LT

それぞれの本のキャプションは以下の通りです

●「数学用語と記号物語」
●「授業を楽しくする数学用語の由来」
 (片野善一郎)

「正弦はなぜsinか」
「関数はなぜfunctionなのか」など、
数学用語に関する話題が豊富です。

そして、その語源や歴史的流れを知ることで、
その本質に迫ることができる内容になっています。

授業での話題や、生徒の疑問に答えるためにも、
教師必携の本でもあるかもしれません。

●「博士の愛した数式」(小川洋子)
80分しか記憶が持たない数学者「博士」と、
「私」と「ルート」のピュアで、知的で、
そして切ない愛の物語。

博士の愛した数式はご存知
e^(πi)+1=0 ですが、
このストーリー全体のモチーフとして
「完全数」を中心とした数論の面白さが
取り上げられています。

生徒に読ませたいし、この本を使って
授業を展開するのも面白いですね。

尚、著者と藤原正彦氏の対談集
「世にも美しい数学入門」もお薦め。

●「天地明察」(冲方丁)
江戸時代の天文学者(であり
碁打ちで数学オタク)の渋川春海の
生涯を描いた時代小説。

春海が全国を測量し、
日本の新しい暦法を策定するまでの過程が
見事に描かれています。
関孝和などの和算家も登場しますが、
あらためて、江戸時代の
日本の優れた知性に感動を覚えます。

和算がらみの小説では
「算法少女」(遠藤寛子)もお薦め。

●「赤いぼうし」(美しい数学シリーズ)
(画:安野光雅 文:野崎昭弘)

安野画伯は日本を代表する絵本作家ですが、
数学・科学にも造詣が深いですね。

私は学生時代「数学セミナー」(日本評論社)に
連載していた氏の「算私語録」の大ファンでした。

絵本とはいっても、友人である
野崎昭弘氏という格別の数学者との共著なので、
実は組合せ論や論理に関する
堂々たる数学書でもあります。
巻末に大人向けの解説もついています。

尚、安野氏の絵本では、
「はじめてであうすうがくの絵本1~3」もお薦め。

日本にはこんなに凄い絵本があるのに、
眠ってしまっているのは本当にもったいないですね。

●「数の悪魔」(H.M.Enzensberger 訳:丘沢静也)
数学の本は売れるといっても
たかが知れていますね。
でも、10数年前にこの本の初版が出たとき、
一般の小説などを凌いで
空前のベストセラーとなったのです。

子ども向けに書かれていますが、
数学に落ちこぼれた大人達が、
この本で数学の面白さや楽しさに
目覚めたという声も多かったようです。

数学教師としては、著者の講演を記録した
「数学者は城の中」も読みたいところです。

●「虚数の情緒」(吉田武)
「虚数の情緒」は、表紙に
「中学生からの全方位独学法」とあるように、
中学生の知識があれば
独学で読み進められる構成になっています。

1000ページにも及ぶその内容は
とても深いのですが、
わかりやすい記述と興味をそそる豊富な内容で
読者をぐいぐい引きつけます。

吉田氏の著書では「オイラーの贈物」も名著です。
私は昔、数学科を志望する生徒にすすめていました。

●「数学とは何か」
(R.Courant H.E.Robbuns 訳:I.Stewart 森口繁一)

数学の様々な分野の基本概念が
系統的に書かれています。
数学というと「解析」「線形代数」など分野ごとに、
独立に勉強することが多いですね。
確かにその中で、専門性は磨かれるのでしょうが、
横断的に数学を見渡すことができない
という欠点もあります。

この本は、古典から現代までの数学グラフィティとして、
高いところから数学全体を鳥瞰する本です。

「数学とは何か」に対する
答の輪郭が見えてくるかもしれません。

●「The Mathematical Experience」
(P.J.Davis&R.Hersh)

格調が高く、高校生には難解で
読み進むのが大変かもしれません。
でも、数学とは何かという命題に対して、
正面から大上段に振りかぶって攻めてくる、
ある意味崇高な哲学書でもあります。

各セクションのテーマも詩的で、
文章表現も美しいです。

人気ミステリイ作家(大学の助教授でもある)
森博嗣氏の「笑わない数学者」にも
エピグラフとして引用されています。

「数学の精選話題」や「教授と学習」など
興味をそそる話題も多いですよ。

●「UniversaL PatternS」
 (Martha Boles & Rochelle Newman)
●「Image of Infinity」
 (Ray Hemmings & Dick Tahta)
●「The Surface Plane」
 (Martha Boles & Rochelle Newman)

この3冊は、1992年にカナダで行われた
ICME7(国際数学教育者会議)の会場で
購入したものです。

見ているだけでインスピレーションが湧いてくる、
数学とアートの魅力満載の書です。

●「数学スナップショット」(H.Stainhaus 訳:遠山啓)
この本の初版は1957年なので60年前ですね。
でも、その着眼のユニークさ、
数学の美しさを追求するセンスは
今でも色褪せていません。

例えば、「立ち上がる正12面体」は
私の得意の授業ネタですが、
ルーツはこの本にあります。

尚、訳者の遠山啓の「数学入門(上下)」は
教師にも生徒にも読んでほしい本ですね。


●「フラクタル音楽」(Martin Gardner)
学生の頃、ガードナーの「数学ゲーム」の本を
貪り読んだ時代がありました。

この書は、その「数学ゲーム」からの抜粋版です。
私は、この本に出てくる
「褐色音楽」の話題にヒントを得て、
ハノイの塔の音階を作り、
私のホームページのオープニング曲にしています。

また、盛岡三高の教員時代に
「30個の立体パズル」を作って生徒に出題したところ、
数学の成績が良くなかった女子3人が
奇跡的に解き、大喜びして私に完成したパズルを
持ってきてくれたことがありました。

彼の本との出会いは
自分が数学教育の世界に進むきっかけに
なったようにも思います。

私の目指したワクワク数学の授業の
原点といってもいいかもしれません。

●「「無限」の考察」(足立恒雄・絵:上村奈央)
誰もが「無限」について
考える時があると思います。

無限は神秘で、不思議で、
そして魅力的な概念ですね。

本書は、この「無限」というシロモノを
解析、幾何、集合の3つの数学的視点から
分かりやすく解説してくれます。

書店で立ち読みしたとき、
添えられた絵がとてもステキだったので
思わず買ってしまいました。

この本を読んで、
数学はやっぱりセンスオブアートが
大切だなあと思い、授業の中に
積極的に絵を取り入れようと思うようになりました。

●「アキレスとカメ」(吉永良正・絵:大高郁子)
「「無限」の考察」と同様の装丁、
どちらも講談社からの出版です。
この書は、ゼノンの4つのパラドクスを
図解入りで分かりやすく取り上げています。

それは単なる論理の遊びを越えて、
哲学の世界を展望する読み物になっています。

数学は問題を解く技能を競う学問ではなく、
世界はどうなっているかを読み解くために、
問いを立て続けていく営み、
つまり哲学と言えます。

高校生の時代に、
哲学としての数学を味わって欲しいと思い、
この本をピックアップしました。

●「フラットランド」(Edwin Abbott Abbott ・Ian Stewart)
●「2次元より平らな世界」(Ian Stewart 訳:青木薫)

「フラットランド」は1884年に敢行された科学書。
幾何学に関する数学書であり、
また物理学の古典であり、
また社会を風刺する小説でもあります。

原典を読んだことはないのですが、
2002年にイアンスチュアートの注釈によって
リメイクされたものをピックアップしました。

そしてその後、その「フラットランド」の発展版として
「フラッターランド(2次元より平らな世界)」が登場します。

いやあ、この「フラッターランド」の
面白いこと面白いこと。
一気に読んで、あまりに面白くて友人に貸したら
未だに返ってこないという。

次元というくくりで、数学の全体像を
とても楽しく提示してくれるオススメの書です。

●「見える数学1」(西三サークル)
この本は、「西三サークル」という
愛知県の高校教師を中心とした
数学サークルの面々が開発し、
実践した手作りの教材を集めたものです。

教具や図解などのシェーマは
数学の概念を「見える化」します。

そしてモノを使って楽しく学ぶことで
数学に対する親近感を抱くことができます。

西三サークルの先生方の、
「数学ってこんなに楽しいんだよ」っていう思いが
ビンビンと伝わってくる本ですね。

●「ディオニシウスの耳」(湯川薫)
SF(サイエンスフィクション)はよく耳にしますが、
今はMF(マセマティカル・フィクション)
という言葉もあります。

私はかつて、工学博士の森博嗣の
「すべてがFになる」「笑わない数学者」
などのシリーズにハマり、
シリーズの作品を全部読みました。

本書は、理学博士でもある湯川薫氏の
サイエンスミステリーです。

モーツアルト暗号と呼ばれる楽曲や、
回転楕円体のトリックなど、
数学、物理、音楽の話題が
散りばめられています。
彼の「虚数の眼」も面白いです。

●「数学の不思議」(Calvin C.Clawson)
数学の面白さの一つは、
誰もが取りかかれるようなシンプルな問いの中に、
美しく、不思議で、深くて神秘な世界が
横たわっているということではないかと思います。

この「数学の不思議」は、そんなシンプルで、
知的好奇心をくすぐる数学のトピックスが
たくさん散りばめられています。

そして、それを楽しく味わっているうちに、
数学の世界がどのように進化発展していったかの
概観をイメージすることができると思います。

●「数学と論理をめぐる不思議な冒険」
(Joseph Mazur)

「論理」「無限」「現実」という3つの章立てによって、
数学の歴史的な興味深い話題を取り上げ、
物語的な構成によって、
数学とは何かということに焦点を当てています。

そこに、数学とは
理系の研究者のための学問ではなく、
広く賢い市民になるための教養として
広めていこうという著者の思いを感じます。

●「つながる高校数学」
(野崎昭弘・何森仁・伊藤潤一・下町壽男)

すみません。ちゃっかり拙著を入れました。
従来の教科書の見方、切り口を少し変えて、
高校数学の全体像を見渡そうという思いで作った本です。

それぞれの単元に「エクスカーション」を入れて、
発展的な内容を展望するような構成になっています。


●「フーリエの冒険」(ヒッポファミリークラブ)
ヒッポファミリークラブ(言語交流研究所)のメンバー、
数学についてほぼ素人の集まりが、
フーリエ級数を「自分たちの言葉」で
理解していく過程を一冊にまとめたものです。

このシリーズには他に
「量子力学の冒険」「DNAの冒険」があります。

まさに知の冒険という趣です。
この本から、主体的で対話的な学びが、
楽しさとともに、限界を突破する
強靱さを持つことを感じました。

●「話題源数学」(編集代表:吉田稔・飯島忠)
高校や大学の先生方が、数学の様々分野における
面白そうな話題を綴った教材集です。

ほぼ1~2ページに1話題というコンセプトなので、
とても読みやすいです。
授業でのワンポイントとして使うのもよし、
時々パラパラとページをめくって、
興味ある表題を見つけて眺めてみるもよし、
自由研究のネタ探しに使うもよし、
数学好きには手元に置いておきたい本ですね。

●「ニャロメの面白数学教室」(赤塚不二夫)
この本は、私が以前、
花巻北高校に勤めていたとき、
生徒からもらったものです。

「先生好きそうだから」

といって渡してくれました。
これは赤塚不二夫が
たくさんの数学の書物を参考にし、
2年以上かけて大マジメに取り組んだ
200ページもの作品です。
赤塚不二夫氏のあとがきには
次のように書かれています。

「最初、ぼくは驚きの連続でした。
なにしろ、ただの計算だけの世界だと思っていたのが、
完全な間違いだったからです。
冷たく見える数式の裏側には、
ショッキングなドラマが隠されていました。
何十人、何百人の大天才たちの驚くべき発想!
ゼロの発見と、マイナスの発見。確率の面白さ。
微分・積分の神秘。
どれをとっても興味がつきません。

何でこんなに面白く、スリルに富んだ数学の世界を、
ぼくらの先生は教えてくれなかったんだろう。
数式を書き並べ、
計算方法を教えてくれるだけだった授業を、
こんなに呪ったことはありません。」


まだまだ紹介したい本はありますが
取りあえず今回はこんなところで。


 

岩手巡回の旅

先日の土曜日に、数学の会合がありました。

その中で、K先生から
とても面白い話を伺いました。

K先生は、ゴールデンウィークに3日かけて、
岩手県内33市町村全部をまわる
家族旅行をしたそうなんですが、
その条件がとても面白いのです。

その条件とは

「全市町村をもれなく1回ずつまわって
自宅に戻る」

「同じ市町村を2度通過してはいけない」


というものだそうです。

自己回避型一筆書き、
つまりジョルダン曲線を描きながら
全市町村をもれなく1回ずつ巡回する
ということですね。

K先生によると、岩手県は巡回可能ですが、
宮城県は不可能なんだそうです。

また、岩手でも地図上では可能ですが、
冬場などは道路通行が不可の地域もあり
不能になることもあるのだそうです。

面白いなあと思って、自分も自宅紫波町から
出発する経路を考えてみました。

iwatejyunkai01.jpg

おまけに4色塗り分けもやってみました。

iwatejyunkai02.jpg


移動時間を最小にする経路を考えるのは
「巡回セールスマン問題」といわれる
数学の有名問題につながります。

このトライアルには、
そんな数学的な要素の他に、
地理、地域の産業や観光など
多くの学びの要素が含まれています。

高校生の自由研究にも面白そうですね。

 

数学初任研

5月10日から12日までの3日間、
本校で数学の初任者研修が行われました。

昨年度、一昨年度は理科の初任者研修を
引き受けていましたが、今年は数学。

7名の初任の先生が3日間本校に通いました。

まずは、2日目に行われた本校の教員による
公開授業から見どころを紹介します。

2学年の三角関数の導入の授業です。



サインのグラフをアナログで導入し、
GeoGbraを活用して説明。

クラスから「1,2,3・・・」の声が
自然発生的に起こるところが良かったですね

次に1年生の濱田先生の授業です。
対称式変形についての授業風景です。



生徒と教師がともに授業を
楽しんでいる様子が
ひしひしと伝わります。
「主体的・対話的で深い学び」
が感じられますね。


私は、初日に1時間程話しをしましたが、
その中から2つほど紹介します。

【史上最低のジグソーパズル】

写真のような、3枚のピースからなる
長方形があります。

ssjp-01LT.jpg

これを並べ替えて
別の平行四辺形を作るという問題です。

生徒にやってもらうと、ほぼ瞬時に、
次の写真のような長方形が出てきます。

ssjp-02LT.jpg

ところが2人の先生にやってもらったのですが
なかなか出てこないのです。

「いやあ、大人になって分別を纏うことで、
もともとあった研ぎすまれた感性が
鈍くなったんですね」

などと冗談を言っていたら、
3人目の人が黒板に駆け寄り、
次のような図形を作ってくれました。

ssjp-03LT.jpg

なるほどそうきたか。

確かに(長方形でない)平行四辺形が
更にもう一つできることが判明。

ssjp-04LT.jpg

こんな他愛のない教具でも、
いろいろ面白い展開が考えられそうですね。

その一つとして三平方の定理を納得する
という話をしました。

ssjp-05LT.jpg

ちなみに、この「史上最低のジグソーパズル」は
小沢健一先生(元東野高校校長)から
教えていただいた教具です。


【3つの球】

数学の活用という文脈の中で、
下の写真のような教材を理科の先生から借りて
持っていきました。

3kyu-01LT.jpg

3kyu-02LT.jpg

これが何の教材かわかる人は誰もいませんでした。

理科の先生にそのことを話したら、
理系では地学をやっていないからではないかとのこと。

そっかあ。

さて、これ、何の教材かわかりますか?

実は、地震の震源地を求める原理を説明する教材です。

ちなみに理科では、
「3球が1点で交わる」
「互いに交わる3つの円の共通弦はただ1点で交わる」
ことは自明で出発しますが、数学の立場で、
なぜそうなのかを考えてみることも提起しました。

3kyu-03LT.jpg


最後に、初日の開講式での挨拶で
私が話したことを記しておきます。

研修は、すればするほどスキルが磨かれ
見識が高まる。っていうのは実は迷信です。

県教委指導主事の前でこんなことを話すと
おこられそうですね(笑)。

「~すべき」「~せよ」など
一方向的に与えられることを受動し、
それが内面化されていくことによって、
むしろ能力が減退することだってあります。

これをtrained ignorance(訓練された無能)といいます。

皆さんには、そういう受動的な学びではなく、
持っている力を遠慮なく発揮し、対話し、
アピールし、発信してください。

若い先生の感性やアイデアは私たちにも
大きな力を与えてくれるはずだと思います。



研修から主体性を引き算すれば何が残るのか。
教育公務員特例法22条の精神の根本には、
教師の主体性の尊重がある、
私は、20代から一貫してそういい続けています。