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「ユビキタス社会の中で求められる知性」

先日ブログで、
本校1年生のあるクラスで行った
「快適と幸せ」というテーマで行った
ディスカッションについて紹介しました。

実は、他の2つのクラスでは、
同じユビキタスコンピューティングの授業の中で、
別のテーマでディスカッションを行っていました。

今回はそれについて、
2つのクラスで行った内容を一つにまとめる形で
以下に紹介したいと思います。

1 ユビキタス社会についての感想

ユビキタスコンピューティングの
授業後に行った生徒たちの振り返りの中から
いくつかをピックアップし、
以下のようなスライドにして
授業で紹介しました。

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2 ディスカッションに向かう

なるほどと思う意見が多く、
とても感心しました。
その中で一つあげると、

「コンピュータで人間は便利な生活が
できるようになるかもしれないけれど、
環境とか動物とかにとっては
迷惑かもしれない。」


というコメントです。

私たちは「自分たち人間」を主語として、
あるいは「コンピュータ」と「人間」という
二元論の中でユビキタス社会を語りがちです。

そこには、他の生命体や環境という視点が
ないがしろにされているのではないか
という指摘ですね。

多くの生徒がなるほどと頷いていました。

さて、この振り返り中で、
未来の職業や雇用を展望するコメントも
多く見られたので、

次に示すような問いを立てて
ディスカッションを行ってみました。

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(ディスカッションの様子です)
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3 生徒たちの意見

生徒たちから次のような意見がでてきました。

まず、ユビキタス社会の中で、
「消えていく仕事、新たに生まれる仕事、
変化する仕事」という部分で出された意見は
次の様なものでした。

<消えると思われる仕事>

■ 工場作業員、スーパーやコンビニの店員
■ ドライバー(運転が自動化されてくる)
■ 通訳・オペレーター(AI/ソフトが進展する)
■ 会計処理などの事務処理が
  AIに代わられ事務職が消える


などです。

<変化する仕事・新たに生まれる仕事>

■ 書籍、教科書が電子化されることによって、
  様々な仕事の変化が起こる
■ 配達業務はドローンが活用され大きく変化する
■ 大工さんはAIを伴い新たな形の仕事になる
■ コンピュータを管理する仕事は増えるのではないか
■ 司法に関する仕事が変化する


最後の「司法に関する仕事」に関して、
とても面白い意見がありました。

それは、

「例えば、ドライバーなどをロボットが行う中、
事故が起こったとき、誰が裁かれるか
ということが問題となる。
そこで、法体系や法の執行を見直す必要がある」


という意見です。

彼は授業後の振り返りの中で
「論理に従って機械的に処理する」ことと
「道徳的に処理する」の二分化の方向に
進むと述べていました。

その他、消える職業の中で
「教師」という意見がでたので、

「学校や教師は消えるか?」

というテーマで少し意見を聞いてみました。

とても面白かったので、
彼らの意見を以下に記しておきます。

<学校や先生はなくなるか>

●肯定派
・AIやネットワークの活用が進むと
 教科指導において教師は不要になる
・小学校の先生は残るけれど
 中学・高校の先生は残らないのではないか。
・教科書を教えて、課題を出して
 テストをするだけならロボットの方が
 効率的に処理できる。

●否定派
・学校は人の集まるところに意義がある。
・教師は教科書だけを教えるのではない。
 教師が道徳や生きる力を教える人である限り
 なくなることはないのではないか。
・AIが進化しても、人にしか教えられないことや、
 人に教えられたからこそ
 身に着くこともあるのではないか。


これらの意見の中から透かして見えるのは、
アクティブラーニングのそもそも論です。

彼らの意見は、
教科ベースで、学習定着率向上や
目に見える短期的成果のための
授業メソッドを追いかけるだけでは、
教師の未来は暗いということを
示唆しているように思います。

また、ある生徒から出された、

「単純作業が機械に置き換わっていく中で、
つり銭計算など、日常で行われていた
生活上のスキルがなくなってしまうのは
危険ではないか」


という意見にも考えさせられました。

人間が行う単純作業は
どんどんオミットされていくけれど、
実はそんな単純作業の中に、
失ってはいけない本質的な何かが
潜んでいるのかもしれません。

次に、
「快適さを追求する中で、
人間が見失ってはいけないものは何だろうか」
という問いに対しては、
次のような意見が出されました。

■ 理性
■ 人を思いやること、おもてなしの心
■ 人に頼らずに自分でやろうという気持ち
■ 考え方を固定しない。豊かな発想力。
■ 積極性
■ 愛(ロボットは料理は作れても愛は人間だけのもの)
■ 地球環境問題についての意識
■ 人とのコミュニケーションの大切さ


このディスカッション後に行った
振り返りの主なコメントは以下の通りです。

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次の時間、
今回のディスカッションを振り返って
私から15分程の時間をとり
まとめのプレゼンテーションを行いました。

その内容を、使用したスライドを用いながら
簡単に紹介します。

1 社会の変化と教育の変化

社会の変化について、
産業主義社会の前後という文脈で
簡単に話しました。

次の様なスライドで説明しました。

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私が学生時代は、より多くのお金や、
地位や名誉を獲得するために、
人生というレースに打ち勝つ、
という考え方が主流でした。

そして、皆が一斉に同じ方向を向いて行動し、
消費していく時代でした。

学校教育は多様性を認めず、効率性を重視し、
一方向的に教え込む形の授業が
中心になっていました。

現在はそのような社会は
既に制度疲労を起こしていて、
新たな考え方、価値観が
求められている時代であるという話をしました。

2 「雇用の未来」について

次に、

「今後10~20年程度で、
米国の総雇用者の約47%の仕事が
自動化されるリスクが高い」

という、2013年に行った、
オックスフォード大学の
マイケルオズボーンらの
研究に由来する言葉について
少し掘り下げてみました。

彼は、
「手先の器用さ・独創性・優れた芸術性
交渉力・説得力・他者を支援する力」
など9つの因子に着目し、704の職業を、
これらの因子が含まれる度合いを
数量化する中で、ランキングを行いました。
(以下のスライド参照)

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だから、そのランキングを見ると、
上のスライドにあるように、

Recreational Therapists、
Healthcare Social Workers、
Dietitians、

果ては

Marriage and Family Therapists

などといった、
心や人間関係にアプローチする仕事が、
残る可能性が高い職業として
分類されていることがわかります。

つまり、オズボーン達の研究は、
他者に共感し、支援する力や、
何もないところから物をつくりだす
創造力のようなものを、
コンピュータが追いつけない知性として定義し、
そのような知性を含む職業が
今後人間には求められていく
という提言を行ったと解釈することができます。

ちなみに、オズボーンのランキングを見ると、
小学校の先生が高い確率で残る
という結果が出ています。

これは、彼らは、単に知識や技能を
教え込むことを越えて、
社会的知性、創造的知性の土台を
築いているからということなんですね。

ここで、オズボーンが提唱する
「コンピュータが人間に追いつけない9つの特性」と、
今回のディスカッションの中で
生徒たちがあげた
「快適さを追求する中で、
人間が見失ってはいけないもの」
の多くが重なっていることが注目に値します。

つまり、
「快適さを追求する中で、
そこで人間が見失ってはいけないもの」こそが、
私たちの未来の仕事として
確立されていくのではないか、

それは、皆が思っていることを
「本当に大切にしていく」ことで、
皆さん自身が新しい仕事を
つくりだしていく可能性を
示しているのではないか、
という方向で話をしました。

そして、まとめにかえて、
Apple CEOの Tim Cookの
次の言葉を引用しました。

人間のように考えられる能力をもつ
人工知能の存在に、僕は脅威を感じない。
しかし、価値や共感を感じず、
いわばコンピュータのように考える人々のことを
憂慮している。


最後に、ユビキタス社会における
「成功する人間」
「成功しない人間」について、
次のスライドを示しながら、
私のプレゼンを終えました。

0707fig04.jpg

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今の私の人生の楽しみの一つは、
生徒たちの素敵な
振り返りコメントを見ることであります。



 

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