「ハンドボールクリニックと教育論」

昨日は午前中、花巻北高校の体育館で、
スペインでプレーするプロハンドボーラ―の
銘苅淳(めかる あつし)選手の
高校生対象のハンドボールクリニックが行われ、
私も見学をいたしました。

銘苅選手は、ハンドボール世界最高峰といわれる
ハンガリーリーグの2014年~2015年シーズンで
20試合120得点をあげ、
日本人初の得点王になった凄い人です。

プレーヤーとして活躍する傍ら、

「ハンドボールが、文化として、生活の一部になって
人生を豊かにするものとしてたくさんの人に
届きますように」

という思いを持って、ハンドボールの魅力を、
あらゆる場で精力的に
発信し続けている方でもあります。


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これは面白い!
愛知県の西真樹さん、みどりさん夫妻が
製作されたという立体作戦版です。
ゴールキーパーを極とした極座標で
位置関係を表示するわけですね。
数学の教材としても興味津々でした。


私は今回のクリニックに参加して、
いわゆる「学び」の本質について
多くのことを考えさせられました。

そうなんです。このクリニックは
ハンドボールの技術面の指導を超えて、
「主体的で対話的で深い」
学びの場でもあったのです。

だからこそ、私は彼の指導の様子を、
「教育論」「授業論」として受け止めていました。

そういう意味で、今回のクリニックは、
ハンドボールというジャンルにとらわれず、
多くの教師に観てもらいたい内容でもありました。

では以下に、私が授業論として感じたことを
いくつかまとめておきたいと思います。

【基礎・基本について】

最初の30分程は、
体幹を鍛える基礎トレーニングが行われました。

基礎ドリルというと往々にして、
ダッシュ100本とか、腕立て腹筋背筋とか、
局所的で「型どおり」の運動が中心になります。

選手は、指導者から与えられたそのようなメニューを、
歯を食いしばって黙々と「こなす」ことに
終始してしまいがちです。

まるで、「辛くて苦しいこと」自体が
基礎練習であるというコンセンサスが
指導者と選手の間に
できあがっているかのようにも思えます。

しかし、今回は、そのトレーニングの一つひとつに、
局所ではなく、複合的に
様々な筋力を鍛えるような
仕掛けが施されていました。

そして、何より、そのエクソサイズ自体が
面白さや楽しさを感じる内容だったことに
私はとても感心しました。

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心地よいリズム感とともに、
スピーディーに展開される
バラエティなエクソサイズの中で、
選手たちが生き生きと
楽しそうに活動する姿を見ながら、
私は、これを授業に置き換えて考えていました。

アクティブラーニングの話が現場に入ってきたとき、
こんな声をしばしば耳にしました。

「本校の生徒は、そんな授業の前に
まず基礎基本を身につける段階だ」

私は、

「じゃあそれならその基礎を身につける過程を
アクティブにできないか」

と問いかけました。

すると、

「うちの生徒は『できない』から、
板書をキチンとノートに書かせる習慣を
つけさせることが先決」

とか、

「そもそも授業とは黙々と基礎基本を
身につける場であって、
そんな賑やかしの授業をすると
収拾がつかなくなる」

などという答えが返ってきました。

つまりそこには、
「できない生徒」には主体的で自由な発想を
求めるような学びはむしろ害をなすこと、
そして、教師が一方向に語り、
それを生徒がひたすら受動するという学びを
是とするという発想が垣間見られます。

銘苅さんのトレーニングは、バラエティで、
それ自体が楽しく、選手のテンションが
どんどん高まっていきます。

また、基本的にペアによる活動なので、
自然と対話が生まれ、それがモチベーションに
つながっていくように感じられました。

感心したのは、
例えばメディソンボールを使ったエクソサイズでも、
全員が同じことをするのではなく、
自由な動きを意識的に入れることを
銘苅さんは強調されていることです。

つまり、言われたことをただ受動するのではなく、
そこに自分なりの創意工夫を入れていく
という自由度を与えているのですね。

私は銘苅さんの練習を見ながら、
基礎基本の中に「意欲」を生み出す仕掛け、
ペアワークなどによる対話的な活動、
自由度を与えること、
などといった主体的な学びを生み出す
指導者の力量について考えさせられました。

そして、そのように、
主体的に学びだすことによってこそ、
「基礎を行う」ことを自己目的化するのではなく、
広く応用されるための土台となる
本当の意味での「基礎力」が
培われていくのではないかと感じました。

【対話の重要性】

3対3のシチュエーションでのドリルの際、
意図がきちんと把握されず、
単に「形式的」な動きになっている選手がいました。

それを察知した銘苅さんは瞬時に、
わかっている選手が、
わかっていないと思われる人に
説明をするよう促します。

彼はこう言います。

「わかっていると思っていても、言語によって
人に説明できなければ
わかっていることにはなっていない。
人に説明をすることによって、
自分自身の理解も深めていく」

その結果、単に黙々と「こなす」練習から、
グループ内での対話が起こり、
練習の深まりが生まれていきました。

これはまさに、他者へ説明する活動が、
他者のためばかりではなく、
自分自身の深い理解に結びついていくという、
学びの本質を射ている話だと膝を打ちました。

【即時フィードバック】

銘苅さんは、多くを語りません。
語る内容はシンプルです。

しかし、その後の選手の活動をしっかり観察しています。

そして、選手の失敗事例を見つけた瞬間、
それを全体にシェアしながら個に返していきます。

また、ちょっとしたいいプレーに対して
「ナイスプレー」という評価を「瞬時」に返します。

凡百の教師は、生徒に活動をさせず、
ひたすら一方的に語り倒します。

そのような教師は良い指導者とはいえません。

良い指導者は、学習者のパフォーマンスを
注意深く観察します。

その中で、よい活動には
即時にフィードバックを与え、
また、失敗事例を材料にしながら
高い学びに学習者を導きます。

【自由というキーワード】

銘苅さんはとにかく「自由」という言葉を
盛んに語りかけていました。

「君たちには自由を与えている。」
「自由が与えられたことを楽しみなさい」
「自由によって責任も生まれている」

等々

例えば、3対3の攻防のドリルにおいて、
単にパターンを「こなす」ことを
目的化するのではないことを、
銘苅さんはこのように表現されます。

「ディフェンスが自由な発想で動きをつくることで、
オフェンスも自ら考え出し、
そこにアイデアが生まれる。」

つまりディフェンスとオフェンスの
両者の自由な発想によって、
新しい価値が生まれるということですね。

授業でいうならば、先生が話したことを
単純に鵜呑みにするのではなく、
そこから派生して自分で考えだすことが
いかに大切であるかということだと思います。

あるいは、他者との対話によって、
新しい気づきが生まれる
ということでもありましょう。

学力の3要素の中に
「思考・判断・表現」という観点があります。

それは、受け取った知識を、
自分の中で咀嚼し深めたり、
自由な発想でその枠を超えて、
更に新しい知識を編み直していく
過程でもあると思います。

【転移する学び・生きる力】

未だに多くの教師は、アクティブラーニングを、
学習定着率を効率的に高めるメソッドと
勘違いしています。

そして、その結果を模試の偏差値や
大学進学実績に求めようとしています。

アクティブラーニングとは
「主体的で対話的で深い学び」を実現すること。
そして、アクティブラーナーをつくることです。

アクティブラーナーとは、
「学び方」を会得した人間であり、
だからこそ、生涯にわたって学び続ける力、
学んだことを他の領域に転移させる力を
持った人だと思います。

銘苅さんは、最後に選手たちを集めて
こんなことを言いました。

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「ハンドボールをすることによって、
皆さんがハッピーになって欲しい。
そのためには、失敗を恐れずトライすること。

自由が与えられたら、その自由を
もっと楽しまなければだめです。

皆と一緒でいいですよ、
先生もっと教えてください、
何て言っているようでは全然だめですよ。

そして、自分をもっと高めるという
楽しさを身につけると、
それはハンドボールだけではなく、
他の世界にもつながっていきます。

だから、皆さんがハッピーになったら、
そのことによって、皆さんの周りの人間を
ハッピーにしていく。
そういう人になってください。」

ハンドボールという競技における
技能の向上に留まらず、学び続ける楽しさ、
そして、他者をハッピーにするという
大きな目標が語られ、
濃密な2時間が締めくくられました。
本当にあっという間の2時間でした。


今回のクリニックが始まる前に、
私は銘苅さんとほんの少しだけ
お話をさせていただきました。

でもそのほんの一瞬のうちに、
彼の逞しい身体だけでなく、人の心を掴み、
場の空気を変えてしまうオーラを強く感じました。

そして、身体だけではなく
頭がとても良い方であることも
瞬時に理解できました。

その頭の良さとは、
知識がいっぱいあるということよりも、
「学び方を熟知している」というイメージです。

だからこそ、あらゆることに、
彼の身につけた「学び方」が波及、転移され、
それが彼の生きる力、魅力として
体現されているのだと思いました。

銘苅さんありがとうございました。


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