昨日の桜雲祭で、
本校が「総合的な学習の時間」で行っている
「自由研究」の代表発表(「総学バトル」)
が行われました。

「自分の気持ちはどのように作られるか」
について独創的な研究を行ったものや、
将来フリースクールの教師をやりたい
という思いを持ち、
その実現の可能性を求めた研究など、
印象に残る面白い発表がありました。
その中で、M君の「音のクスリ」という発表は、
音楽に「1/fゆらぎ」を入れることで、
心理的な効果を高めるというもので、
興味がそそられました。

この発表を聴いて、
私が以前本校に勤務していた時に、
AO入試に向けての指導で、
カズヒサ君という生徒に
1/fゆらぎの話をしたことを思い出しました。
そのときに作った問答形式のプリントを
以下に紹介したいと思います。
あちこち怪しい部分はありますが、
まずは雰囲気だけでも掴んでほしい
という思いから作ったものです。
1 ゆらぎとは T:今日は、1/fゆらぎについて私の知る範囲で、
簡単な説明を行いたいと思います。
S:まず、「ゆらぎ」とは何なのですか。
T:そうですね。まず、そこから説明しましょう。
「ゆらぎ」の研究の第一人者である、
武者利光先生の言葉によると、
『ものの予測のできない空間的、時間的変化』
ということだそうです。
S:それって、でたらめな運動ということですか。
T:いや、「でたらめ」ではないのです。
「でたらめ」と「規則性」の間の状態という感じですね。
例えば、時間と共に変化する数字の列があったとします。
この列が、
1,19,100,-3,34,77,-24,100,57,22,4, …
というものだったら、
これはランダム(でたらめ)な列といえそうですが、
1,3,5,7,9,11,13,15,17,19, …
という数列だったら、これは第n項が
a
n=2n-1
という一般項で表される規則正しい列です。
このような規則的な数列は、
項の何番目でもその値を決定することができますね。
このような列を「ランダム系」に対し
「決定系」と呼ぶことにしましょう。
さて、では次の数列はどうでしょう。
1,3,2,3,4,3,2,1,2,3,4,2,3,2,7,6,5,5,2,3,4,5, …
この数列には全体に適用できるような規則はありませんが、
ランダムというカンジでもありませんね。
「前の項に対し±1の変化を基本に、時々大きな変化も起こる」
ような数列です。このような数列は
「ゆらぎ」といっていいのではないでしょうか。
このような数列の特徴として、
現在の状態の直後は予測できるけれど、
ずっと先はどうなっているかわからないということがあります。
このような系を「ランダム系」「決定系」に対し、
「複雑系」と呼ぶことにします。
S:つまり、ゆらぎとは、「規則性」と「意外性」が
拮抗した状態といっていいのですね。
何か具体的なものを示してください。
T:一番よく例に出されるのは、そよ風ですね。
そよ風は一定の強さではなく、
強くなったり弱くなったりゆらいでいます。
それから、小川のせせらぎとか、
音楽も時間と共に音の高低や大小が変化しているので、
ゆらぎとみる事もできます。
人間の心拍数や体温の変化もゆらぎの一つですね。
2 1/fゆらぎとは S:では、1/fゆらぎとはなんでしょうか。
T:まず、ゆらぎとは時間と共に変化するある量の状態なので、
これを時間tの関数f(t)と表すことにします。
このとき、そのゆらぎに関わる要素として
「強さ(パワー)」と「周期性」に注目してみます。
例えば、f(t)が次のようなグラフで表された場合を考えます。

(時間と共に変化する気温)
この波は、以下の4つのサインカーブ、
コサインカーブに分解できます。

y=sin2πt

y=-3sin4πt

y=2cos6πt

y=2sin10πt
S:つまり、
f(x)=sin2πt-3sin4πt+2cos6πt+2sin10πt
ということなのですね。 どのようにすれば
このように分解できることがわかるのですか。
T:それにはフーリエ級数の考えを用いますが、
その説明は後にします。
ここでおさえて欲しいことは、
ある区間内で書かれたどんなグラフも
三角関数の無限和によって
表すことができるということです。
この考えはフランスの数学者
ジョージ・フーリエによって示されました。
さて、そうすると、先ほどの関数は、
周期1 , 1/2 , 1/3 , 1/5つまり、
周波数 1 , 2 , 3 , 5 の関数で表されます。
このとき、各周波数に対する波の強度をパワースペクトルといいます。
周波数をf、パワースペクトルをPとしたときに、
P=1/fの関係が成り立つとき、1/fゆらぎというのです。
つまり、周波数が2倍になると、パワーが半分になる、
3倍になるとパワーが1/3になる、ということですね。
S:なんとなくわかったような気がするのですが、
パワースペクトルというのはどのようにして求めるのでしょう。
T:例えば、波の強さとして、「振幅」を考えることができますね。
上の例では、波の強さは順に1,3,2,2と考えることができます。
ただ、これはパワースペクトルとは少し違います。
これも後でフーリエ級数のところで話しましょう。
S:少し難しいので、もっと簡単な例で説明してくれませんか。
T:そうですね。では、少し乱暴になるかもしれませんが、
先日カズヒサ君と話したときの方法で説明しましょう。
3 1/fゆらぎの超アバウトな説明 T:ええと。では、バスケットボールの話しをしたいと思います。
今、A君が、バスケットボールのフリースローを何度も行ったとします。
入ったときを○、はずしたときを×とすると、
時間と共に変化する1つの系列を作ることができますね。
これを時系列といいます。
例えば、結果が、
○○×○×○××○○○×××○××○×○○×○○○○○×○×○××○
という結果だったとします。
これのゆらぎを調べてみます。
まず、周期を無理やり導入してみましょう。
○○○…と、ずっと○が続くのを周期1とします。
また、○×○×…と、1回おきに○が起こるものを周期2とします。
次に、○××○…と2回おきに○が起こるものを周期3としましょう。
このように「周期」を定義すると、上の結果から、
各周期ごとにその回数はどうなるでしょう。
S:つまり、周期1は、○○という状態が
何回起きているか調べればよいのですね。

上の表のようになりました。
T:ここで、周期sと出現回数Pをグラフに表すとどのようになりますか。
S:図の様になります(実際はx軸y軸は、s軸P軸となる)。

なるほど、P=1/sのグラフになっているので、
これが1/fゆらぎということですね。
T:先ほどあなたが作った表が、
いわゆる、周波数ごとの波の強さを
スペクトル分解して分析したということになります。
そして、スペクトルの強さはここでは、
「出現回数」ということにしましたが、
一般にはパワースペクトル密度とよばれるものを
計算することになるのです。
S:なるほど。そして、そのグラフを見ると、
シュートをした人の特性がわかるのですね。
T:例えば、光は波ですが、太陽の光をプリズムを通すと、
赤橙黄緑青藍紫の7色に分かれますね。
光の色は波長(周波数)に対応するので、
プリズムで投影された色の幅の太さが
その波長の強さを表しています。
太陽光の場合だと、色の幅が均等になりますね。
このようにスペクトルを分析することで、
様々な性質を知ることができるのです。
しかし、そよ風や、音などのゆらぎは、
プリズムを通してスペクトル分析ができないので、
周波数(振動数)と振幅を調べることで
パワースペクトル密度を考えようというのです。
4 フーリエ級数 T:では、最後にフーリエ級数の話しをします。
先ほど少し話をしましたが、ある区間内で描かれた
任意の(有界な)関数f(x)は、
必ず三角関数を用いて表すことができます。
具体的には、

とあらわせます。
関数として式で表されなくても、
例えば下図のような手書きの任意の図形だって、
三角関数で表されるのです。

さて、私達は、上のようなゆらぎのグラフから、
どの周期の三角関数が、どれだけの強さで
入っているかということが知りたいわけです。
ということは、f(x)内における、すべてのnに対しての
sin nxとcos nx の係数を求める必要がでてきます。
ところで、ここで、とても素晴らしいことに、
cos nx とsin nxとの係数、a
n , b
nは、
なんと、次の積分によって表されてしまうのです。

これをそれぞれフーリエコサイン係数、
フーリエサイン係数といいます。
S:難しいですね。具体例で示してもらえませんか。
T:例えば、f(x)=3sin2x+2cosxという関数を考えます。
今、sin2xの係数である3を求めるには、

を計算すればよいわけです。
実際、

となり係数3に一致しますね。
関数が不明のときも、数値のデータから
区分求積の手法で積分計算していけば
係数を決めることができるのです。
S:では、そうやって求めた a
n , b
nから
パワースペクトル密度はどうやって計算するんでしょうか。
T:

を計算します。ただし、この値は、ある区間でのものですね。
ですから、その区間の長さTで割って、

としておきます。f(x)はその区間をすぎても
またグラフは続いていますので、
また次の幅Tの区間で、同じように

を計算し、それを平均したものを
パワースペクトル密度とするのです。
この方法ではかなり時間がかかるので、
実際はFFT(高速フーリエ変換)という手法で
それぞれの周波数に対する
パワースペクトル密度を求めていきます。
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