「体験は知識を深める」

8月5日に自由ヶ丘で行われた産能フォーラムでは
「深い学び」について話をいたしました。

それについては、後でまとめておきたいと思います。

実は、その2日後に、千葉工大で行われた
数学教育協議会の全国研究大会で、
琉球大学の伊禮三之先生から
興味深いお話を伺いました。

それは次の様なものです。

数学の公式や、解法パターンなどの知識記憶は、
文脈が変わると引き出しにくくなるような
潜在的なものである。
それを、引き出しやすいものにするには、
操作活動などを通して、
経験記憶化することが必要である。


また、この日の記念講演会では、
三重大学名誉教授・岐阜聖徳学園大教授の
上垣渉先生から
「教師であるための授業づくり七か条」
というテーマでお話がありました。
その中で、
言葉で理由を説明する活動の意義として、
コミュニケーション力の向上、
論証に進む第一歩であるとともに、
人に説明することで、
「内容のより深い理解に進む」
ということが話されました。

これらの話を聞いて、
なるほどと思い当たることがありました。

それは、以前、某人物が、ある会見で

「女性にサインコサインを教えて何になるのか」

という話をして物議をかもしたことに関するものです。

その発言者は、釈明として次のように述べています。

私もサインコサインというのは人生で1回使いました。
「私の足がもし15cm長ければ、
私はボルトぐらいのスピードで100mを走れます。」
ということで、一歩一歩、凄い回転が早ですからね。
そのときぐらいしかサインコサイン使っていないよね、と。


私は、最初この話を聞いたとき、
「?」が頭を駆け巡りました。

「足が15cm長ければボルトと同じスピードで走れる」
という、どう考えても荒唐無稽と思える話題を
持ちだしたことに対する疑問です。

でも、同時にわかったことがあります。

彼は、三角関数の公式なんかは、
きっと覚えていないけれど、
誰かが円運動と三角関数を絡めて話したと思われる
ボルトのエピソードだけは、
しっかり「取り出される記憶」に入っているんだ、
ということでした。

三角関数の知識は記憶に残っていなかったけれど、
余談的に話されたことは(曲解されてはいるが)
しっかり残っているわけですね。


さて、私はその後、今度は「教具展」で
折り紙サークルの方から、
とても面白い話を伺うことができました。

それは、1枚の紙を5等分する技法です。
(その技法は後で説明します)

その数学的な手法に感心していると、
折り紙界では常識であるとのことで、
更にびっくりしました。

折り紙業界、あなどれん。

私は、この日の翌日、茨城県の数学部会で
講演を行う予定になっていたのですが、
急遽、この折り紙の話を、数列の漸化式とからめて
「深い学び」の話の中で取り上げることにしました。

以下にそれを示したいと思います。

5等分だと煩雑なので、
簡単のために、3等分で説明します。


「A4の用紙を三等分にする」

という問を立てます。

ここで、折り紙サークルの方の手法は次の様なものです。

まず、任意に、三等分と思われるところを折ります。

これをPとします。
つまりP1が第一の三等分点候補です。

三等分01
かなりテキトーにとりました。

ここで、AP1を二等分し、Pを決めます。

三等分02

P2は第二の三等分点候補です。

今度は、PBを二等分して、Pを決定します。

三等分03

P3は第三の三等分点の候補です。

これを繰り返すと、数回で、同じ点に一致します。

三等分04
APを二等分

三等分05
Bを二等分

三等分06
APを二等分

三等分07
Bを二等分

どんどん収束していきますね。
(五等分の場合は、二等分するところを
四等分(半分の半分)にすればよい)

このような、再帰的な操作は、
漸化式を用いて表現することができます。

PB=a1 
AP2=a2 
P3B=a3
AP4=a4 ・・・

とすると、次のような漸化式が成り立ちます。

漸化式01

この漸化式から一般項を求める過程を
意味づけしてみましょう。

漸化式02


特性方程式から1/3を求め、
両辺からこれを引くことで、式を整理しています。
これは、三等分点からの差を評価する式です。
誤差が前の項の半分に縮まることを示しています。


初項をaとして、一般項を求めます。
nが大きくなると、三等分点からの差が
0に近づくことが直感的にわかります。


つまり、nが大きくなるとa
1/3に収束していくことが納得できます。


漸化式から一般項を求める技法は、
授業の中で繰り返し強調されます。

でも、そのようにドリルだけで叩き込まれた知識は、
その後、恐らく忘れ去られてしまうでしょう。

もしかしたら「漸化式なんて教えて何になる」
といわれてしまうかもしれません。

しかし、このような操作活動を経験することで、
漸化式を立てる意義や、
数学の良さが理解されると考えられます。

つまり、たとえ漸化式から一般項を導く過程を忘れても、
紙を折って三等分点を導いた経験は、
確かな記憶として身体化されていくのではないでしょうか。

それは、「生きて働く深みのある知識」として、
その人の人生を豊かにするものと私は思うのです。


 

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