「授業改革先取りセミナー その④」

今回は、データ分析のモデル問題に対する
批判的な分析を行いたいと思います。

もう一度、前回のまとめの図をあげておきます。

data17-07.png

【仮説を立ててデータ分析へ】

まず、のっけから注文をつけたいと思います。

問題では、太郎さんと花子さんが、
睡眠時間調査のランキングを見ながら、
分析を進めていく形になっています。

しかし、高校生が
課題研究を行う態度としてみたとき、
どうなんでしょう。

いきなり与えられたデータから出発する
ということは稀であって、普通はまず、
仮設を立てて、それを検証するために
どのようなデータをとるかを選択し、
そしてそれを分析する
という流れにいくのではないでしょうか。

例えば、

太郎さんと花子さんは、
「高校生のSNSの利用時間が
学力や生活習慣に影響を与える」
という仮説を立てました。
それを検証するために、
高校1年生100人に対して、
SNSの利用時間、睡眠時間の調査、
及び学習に対するアンケートを実施しました。


というカンジです。

対話的な活動を促進する
という意図があるならば、
このような課題研究を想定した問題設定に
すべきではないかと私は感じました。

【どのような対象に行った調査なのか】

次に、サンプリングについての
疑問を呈しておきたいと思います。

「東北はやっぱり平均気温が低いので、
寒い地域の睡眠時間が長いのかしら。」

っていう花子さんの言葉は
とても安直に感じます。

一瞬、東北の俺たちって熊かよ、と思いました。

ま、それは冗談ですが(笑)。

もっというと、太郎さんと花子さんの

「仕事が忙しい人って、
睡眠時間が短くなりそうだね。」
「通勤・通学に時間がかかる人は、
早起きをしなければならないそうよ。」

という掛け合いもなんだかなあ。

小学校の自由研究のように感じちゃいました。

ようするに、調査データを見るとき、
まず最初に、どのような対象であるのか、
年代は、性別は、職業は等々、
サンプルの属性に注目すべきです。

なぜなら睡眠時間の数値は
その対象の属性によって
異なる因子の存在が考えられるからです。

この問題ではそのようなターゲットが
示されていませんので、
県全体の全市町村から、まんべんなく
任意にサンプリングされていると
解釈するしかないわけですが、

だからといって
「寒いから早く寝る」といった
動物的なまとめには
私はあまり賛同できません。

また、通勤時間や仕事時間についても
調べていますが、未就学児や高齢者、
過疎地の存在などを語らずに
単純に数値やグラフをいじくりまわすことに、
私は違和感を覚えます。

繰り返しになるのですが、
だからこそ、このような調査は、
ある対象に絞って行われ、
そこからその集団の特徴を見出だし、
何らかの対策を講じていくという意図のもとで、
行われるのではないかと思います。

例えば、全国学力調査では
中学3年生の寝る時間調査
というのがありますが、
それは、その結果と学力との間に
特徴的な関係があるのか、
という分析に進むことを意図して
作られているわけですね。

【様々な因子が考えられる】

この調査が任意のサンプリングだとしたら、
私は、気温、仕事時間、
通勤・通学時間の以前に、
次のことを指摘しておきたいと思います。

1 日の入り時間の問題
私は、東北地方の睡眠時間が長いのは、
単に日の入り時間の関係ではないか
という思いがよぎりました。

因みに、9月8日の
岩手県宮古市の日の入りは17:54で、
鹿児島市は18:33、京都は18:15ですね。

東北地方は単純に暗くなるのが早いのです。

2 教育政策
ランキングの第4位に
高知県が入っているのに注意がひかれ、
ちょっと調べてみました。

高知県のホームページを見たら、
笑ってしまいました。

高知県のHPはこちらです→★★

chara1001.gif chara1002.gif chara1003.gif
(高知県のHPより)

高知県には図のような
「はやおき君」「はやねちゃん」「よふかしおに」
というキャラクターがいるんですね。

ちなみに、はやねちゃんの髪の毛は
時計の9時の針の位置をさしています。

よふかしおにはバイキンマンにそっくり。

さすが高知。
やなせたかしを生んだ県ですね。

つまり、高知では県をあげて、
子どもの早寝早起きを推奨しているわけです。

因みに、長野や秋田も
子ども達の早寝の習慣を
キャンペーンしているようです。

このように、県の文化や習慣、
教育政策の力学による影響も、
因子の一つとして考えられるわけですね。

【相関があるとは】

結局、
「1年間の平均気温が低いほど
睡眠時間が長い傾向は、
東日本が全体より強い。」
という結論にいたるわけですが、
そこから人は
どんなことを考えだすのでしょうか。

最初の花子さんの
「東日本において寒いと睡眠時間が長い」
という問いが支持された形に
なっているような印象をいだきます。

私は、講演の中で、次の図のような
一つの極端な例を示しました。

tibasoukan-01.png

これは薬指の長さと算数の計算力との
相関図です。強い相関がありますね。

もちろん、これは私が適当に作った
フェイクデータです。

これを見て
「薬指が長ければ計算力が高い」
と総括してはいけませんね。

この相関図には「年齢」という
隠れた因子が入っているわけです。

指の短い乳児や就学前児童は
計算力がないのはあたりまえですね。

このように、データ分析において、
相関があることを、因果関係があると
捉えてしまうことの危険性を
指導者は注意していく必要がありますね。


【平均値と分散を求めるのが基本】

いやあ、もうこうなると、矢も楯もなく、
全体のデータが知りたくてたまりません。

そういうわけで、
47都道府県の睡眠時間のデータを、
総務省のホームページから
ピックアップしてみました。

すると、今年は、1位が秋田県で482分、
最下位は神奈川県の451分、
全国平均は465.9分で、
分散が47.7(標準偏差6.9)でした。

全体の分布を眺めると、
上位と下位のいくつかの都道府県は
平均からの差がやや大きいのですが、
その他の約35都道府県は、
平均値±σ(6.9分)の範囲に
集まっていることがわかります。

つまり、上位下位の3~5県を除けば、
ほぼ団子状態で、有意な差がない
ということが言えることがわかります。

このように、まずは平均と分散を調べて、
データ分析を行うことが
基本ではないかと思います。

講演では、かつてPISAに出された
次の問題を扱いました。

pisa2006-02.png

1998年の盗難事件数が508件、
1999年の盗難事件数が516件であるとき、
盗難件数が激増したといえるかどうか
考察せよという問題です。

これは、「足切りグラフ」になっているので、
ビジュアル的に差が強調されています。

しかし、きちんと基準を0にとって
棒グラフにすると、図のようになりますね。

pisa2006-01.png

図の描かれ方で印象が大きく変わります。
だから、図やグラフの傾向だけで
判断するのは危険ですね。

そこで、数学的な検証が登場するわけです。

2年間の全事件数1024件を
1998と1999にランダムに振り分ける
というモデルで考えてみましょう。

すると、平均値が512で、
どちらか一方に振り分ける試行による事象は
n=1024、p=1/2の二項分布に従うので、
分散はnp(1-p)=1024×1/2×1/2=256
つまり標準偏差は√256=16となりますね。

すると、512±16が標準偏差内なので、
与えられたデータは特に、「激増があった」
とは言えないことがわかるわけです。

【箱ひげ図の問題】

最後に、箱ひげ図の問題について
問題提起しておきたいと思います。

私が今抱いている
箱ひげ図に対する疑問点を
以下のスライドでまとめておきます。

tibahakohige-01.png

今回の問題は、データの個数が47個で、
4で割ると3余る数なので、
中央値、第一四分位数、第三四分位数の
データが確定する形ですが、
もし、これが48個になると、
第一四分位数は12番目と13番目の変量の
相加平均をとるというのが文科省ルール。

しかし、エクセルのパーセンタイル関数では、
12番目と13番目の値を1:3に
重みをつけた値を返します。

これによって、いつでも第nm分位数が
一つの方法で確定されるわけです。

つまり、教科書で学ぶ手法は、
実社会では使われないものに
なっているわけですね。

まあ、そもそも、箱ひげ図を使って
分析することはあまりないわけですが。

もう一つ、

次のような問題をあげておこうと思います。

tibahakohige-02.png

これは、静岡県が、「箱ひげ図」の導入に伴って
2010年から先行指導を実施した際の評価問題です。

正解は「c」となっていますが、
それでいいと思いますか。

例えば、2つのクラスの人数を15人とします。
すると、第1四分位数、中央値、第3四分位数は
データをソートしたときに、それぞれ、
4,8,12番目のデータとなりますね。

そこで、今、クラスA、クラスBの
データを次のようにしてみましょう。

tibahakohige-03.png

このデータでは、確かに「評価問題」にあるような
箱ひげ図ができます。
しかし、クラスAは60点以上の人数は
11人(約73%)であり、
クラスBの60点以上の人数は8人(約53%)です。

箱ひげ図とは、5つの代表値で
分布を表現したものに過ぎないので(5数要約)、
このような例はいくらでも
作ることができてしまいます。

以上で、批判的な分析について
終わりにしたいと思います。

最後に、講演で示した
「批判的な分析とは何か」
「問題演習の指導を行うための8つのポイント」
のスライドを以下にあげておき、
このシリーズを終わりにしたいと思います。

tibahihanteki-01.png

tibamondaiensyu-01.png

長きにわたり
お付き合いいただきありがとうございました。


 

「授業改革先取りセミナー その③」

前回は、データ分析の
モデル問題を紹介しました。

ごらんになってどんなことを感じましたか。

では、私の所感を以下に記したいと思います。

まず、この問題のストーリーを
おおざっぱにまとめると、
次の図のようになります。

data17-07.png

この図をもとにしながら、
問題を振り返ってみたいと思います。

最初に、作題者側に立ってまとめてみます。

まず、いえることは、
対話の流れに乗って文脈を理解する力が
必要であるということでしょう。

だからそのためには、普段の授業で、
対話型の授業を行う必要がある
ということが導かれるわけですね。

非常に安直なまとめと
いわれるかもしれませんけれど。

もっというと、このような前後の文脈を理解し、
まとめていく力は、数学に限らず
あらゆる教科で養われ、他の教科に
転移していくものであるということです。

いわば科目を横断する、
学び方の基本ともいえると思います。

であるならば、「対話型学習」は、
学校全体として推進していくべきである、
というメッセージが、
この問題に込められているのかもしれません。

まあ、これは
うがち過ぎの見解かもしれませんね。

その他、変量の特徴を見るには
代表値と散布度の両者が必要であることの
納得感を持たせること。

データ分析の単元では、
身近にある自然現象や社会現象を元に
探究型の課題研究を行う経験を積ませたいこと。

相関係数は算出法だけでなく、その意味を理解し、
イメージ化されている必要があること。

などの点がこの問題から指摘できるかと思います。

ところで、大学入試センターからは、
この問題に関して
次のようなコメントが発表されています。

■ 都道府県別の平均睡眠時間について、
 平均気温、通勤・通学時間、仕事時間に
 関するデータを用いて、多面的、批判的に
 考察する力を問うた。

■ 平均、分散、標準偏差などの統計量を
 求めるだけではなく、問題場面における
 データの分析のプロセスに沿って
 問いを設定し、データの傾向や
 変数間の関係について考察する問題とした。

■ また、見出した事柄を既習の知識と結びつけ、
 データを多面的に考察するよう工夫した。


この文章の中で
「批判的・多面的な考察」という言葉が
何度も登場します。

であれば、私は、この問題が果たして
「批判的・多面的な考察」を
行うものであったかどうかについて
「批判的・多面的」に考察してみようと思います。

私は、問題の考察とは、その問題を解いて、
今後の対策を練るということだけではなく、
問題の前提となる条件設定や
結果の分析などを批判的に行うという、
問題の構造自体を疑うという
メタな視点を持つことも
必要ではないかと思うのです。

それは、問題を解く側の
主体的な態度ともいえます。

では、次回は、この問題を批判的に
分析していきたいと思います。

実は、ここからが本番です。



 

「授業改革先取りセミナーその②」

前回から間が空いてしまいました。
今回は、大学入試センターからリリースされた
データ分析のモデル問題を示しておこうと思います。

この問題は、太郎さんと花子さんの
会話によって進行していきます。

テーマは47都道府県における
睡眠時間のランキングについての考察です。

講演では、以下のように
マンガチックなスライドで表現しました。

data17-01.png

<問1>(答②)
47都道府県全体の平均より平均気温が
低い都道府県が睡眠時間が長い
という結論を得るには下線部①では
根拠として不十分である。
その理由として最も適切なものを、
次の0~③のうちから一つ選べ。

0 表1の8つの県の平均気温の
 中央値も調べる必要があるから

① 表1の8つの県の最低気温の
 平均値も調べる必要があるから

② 表1の8つの県以外の都道府県の
 データも調べる必要があるから

③ 表1の8つの県に東北以外も含まれているが、
 それを除外していないから

data17-02.png

data17-03.png

<問2>(答②)
図1の1年間の平均気温と睡眠時間の相関係数として
最も近いものを次の0~⑤のうちから一つ選べ
0 -3.0 ①-0.8 ②-0.4 ③0.0 ④0.4 ⑤0.8

<問3>(答①③⑤)
図1~図4から読み取れる事柄として
正しいものを、次の0~⑤のうちからすべて選べ
0 1年間の平均気温が低い程睡眠時間が長い傾向
 は、東日本の方が47都道府県全体より弱い。

① 1年間の平均気温が低い程睡眠時間が長い傾
 向は、東日本の方が47都道府県全体より強い。

② 東日本では1年間の平均気温と睡眠時間の間に
 相関は殆どない

③ 1年間の平均気温が低い程睡眠時間が長い傾向は、
 西日本の方が47都道府県全体より弱い。

④1年間の平均気温が低い程睡眠時間が長い傾向は、
 西日本の方が47都道府県全体より強い。

⑤西日本では1年間の平均気温と睡眠時間の間に
 相関は殆どない。

data17-04.png

data17-05.png

data17-06.png

<問5>(答②③)
太郎さんと花子さんがこれまで行ってきた
問題解決の過程と結果から
正しいと判断できる事柄を、
次の0~⑤のうちからすべて選べ。

0 平均気温、仕事時間、通勤・通学時間のうち、
 睡眠時間と最も相関が強いのは仕事時間である。

① 東日本では、平均気温が低いほど
 通勤・通学時間が長くなる。

② 西日本では、睡眠時間は、平均気温より
 通勤・通学時間の方が、相関が強い。

③ 睡眠時間と通勤・通学時間の間には、
 東日本、西日本とも負の相関がある。

④ 睡眠時間が短い原因は平均気温が
 低いことにある。

⑤ 平均気温が低いほど通勤・通学時間が
 短くなる傾向にあり、そのために睡眠時間が長くなる。



以上です。
さて、皆さんはこの問題を見て
どんなことを考えますか。

私の考察は次回に記したいと思います。


 

「センター試験とアブダクティブな推論」

昨日、「授業改革先取りセミナー」の話の中で
アブダクションについて述べました。

そこで、今回は、
「先取りセミナー」の話の続きに行く前に、
ちょっと寄り道して、
センター試験における
アブダクティブな推論の
一例をあげておきたいと思います。

これは、数年前に私がブログなどで
述べた内容と重なるものであることを
お断りしておきます。

2010年の三角関数の問題です。

center-13.png

余角の三角比の公式なので、
考えるまでもなく答は①ですが、

これを、例えばxに0を代入して、
sin (シ)=1から求めることもできますね。

なんとも回りくどい、
公式を覚えていないとはけしからん、
十分性を担保しないから数学的ではない、
などと非難されそうです。

でも私は
「すべてのxでなりたつ」という構文から
「それなら、あるxでも成り立つ」と考え、
「じゃあ簡単な0を入れてみよう」
という推論が起きることは、
公式を棒暗記するよりも、
思考がまわっていると評価したいと思います。


次に2011年の集合と命題の
問題を取り上げましょう。

center-05.png

このような問題について
「裏技」と称して
次のような指導をする先生がいます。

「条件の問題は4択なので、
わからなかったら考え過ぎず最後にまわす。
時間がなくなった時はカンでマーク。
それでも1/4の確率で当たる」

私はこれを「裏技」とは思いません。
私が考える「裏技」を使えば、
瞬時に「十分条件」と予想がつきます。

それは裏技というより「常識」です。

命題「pならばq」が真の場合、
条件pを満たす真理集合は、
条件qを満たす集合に
包含されていなければなりません。

ですから、条件pと条件qが
述べている世界の大きさを比較すれば、
必要条件か十分条件か
アタリをつけることは可能です
(もちろん例外はあるので要注意)。

この問題ではq が「または」を含む
条件になっていることや、
pの条件式の不等式の向き(<)から見て、
(pの集合)⊂(qの集合)
つまり、p⇒q が真であることが
予想できるわけです。

極端な例をあげると、

「pでないかまたはqであることは、
rかつsであるための○○条件」

なんていう命題は、
明らかに仮定の部分が
結論を包含していると思われるので、
必要条件である
(少なくとも十分条件ではない)
と予測できるわけですね。

オマケとして、2008年の問題を、
「裏技」でやってみてください。
答は①です。

center-06.png

私がいいたい「裏技」とは、
命題「AならばB」において、
A,Bのどちらが部分でどちらが全体か
という視点に立って、
文脈から「または」「かつ」「補集合」
などの言葉を手繰り寄せながら
類推することです。

これは本質を押さえて勉強していないと
生じない発想であり、
見たことがない問題に対処するための
アブダクティブな方法論の一つだと思います。

今度は、2011年の数列の問題です。

center-02.png

この問題で解法技術を問う部分は、
前半では、「階差数列から一般項を求める」過程、
後半では、「等差×等比型の数列の和を求める」
過程のたった2つだけです.

これらは、いわゆる受験の定番問題なので、
多くの進学校では繰り返し行われているはずです。

ところが、全く手がでなかった
という受験生が多かったのです。

その原因は、問題の読解力にあると推察できます。


受験生に感想を聞くと、
「読んでいて意味が理解できなかった」とか、
「誘導に乗って、なんとか漸化式までは作ったが、
隣接3項間漸化式から一般項を導く方法が
わからなくてできなかった」
などというものでした。

この問題は、閉区間[1,2]から始めて、
区間の幅を1/4に縮めた縮小列を
次々作るということがテーマです(区間縮小法)。

ところが、問題文をよく見ると、
ynの漸化式の形から、
ynは等比数列であることがわかるので、
y1,y2の2項を求めれば
十分であることがわかります。


今度は2010年の数列の問題を見てみましょう。

center-08.png

anの差分(階差数列)が1次式なので、
anは2次式であることが予想できます。
すると、ローカルな範囲での類推を是とすれば、
次のようにして一般項求めることもできます。

center-09.png


次に、図形の問題からピックアップしてみましょう。

2013年の問題です。

center-11.png

この問題の全体像を見ると
特徴的なことがわかります。

それは「解答がすべて整数である」ということです。

そこでこの問題は、格子平面上への
図示だけで解決できるのではないか
という思いが浮かびます。

私は図のような格子平面を描いて解きました。

center-12.png

作図の手順は以下の通り。
① A,Bの座標をとる
② PとQの位置は計算することなく求められる
③ OPの垂直2等分線は、
 図の打点部分の長方形を90度回転すると
 斜線部分の長方形になることから簡単に描ける。
 同様に、PQの垂直二等分線も作図できるので、
 計算することなく2つの直線の方程式と
 その交点の座標がわかる。
④ 更に図から半径が5の円であることがわかり
 円の方程式が決定する。
 Rの座標は、中心から 3:4:5の
 直角三角形を描くことで求められる。
⑤ O,A,Rの座標からひと目で(3)の比がわかる。

実はこの図を示した段階で
すべて解答が終了しています。

分点の公式、垂直条件、連立方程式など、
式の計算を経由しないこのような解法は邪道でしょう。

しかし私は、このような問題を通して、
問題解決とは、前提となる条件から
論理的に推論を積み重ね、
結論にたどり着くだけではないことを
指摘したいと思います。

図や表によりイメージ化すること、
問題文の前後の文脈や、
全体象を眺めることで、
あちこちに転がっている手がかりを拾い集め
解を手繰り寄せること。
結論から逆に追いかけて、
矛盾なく前提と結びつけること。
など、特に初見の問題への対処として
必要かと思います。

見知らぬ道を歩くときも、
目の前の足元の一歩を
懐中電灯で照らしながら次の進路を決めるより、
目指すべき灯台や周囲の状況が
具体的にわかっていて歩く方が
意識も明確になるというものでしょう。

まだまだ、例示したい問題は
たくさんあるのですがこれくらいにしておきます。


以前、私のこのようなセンター試験の
分析を見たある先生から、
裏技的解法を否定するふりをしながら、
実は推奨しているのではないか
という鋭い指摘がありました。

私が強調したいことは、
やみくもに、センターの過去問パターンや、
裏技的手法を丸覚えしても効果は薄く、
肝心なのは、頭の引き出しにしまわれている
それらの断片に、適正にアクセスして
適応・応用させていく力が
あるかどうかということだと思います。

では、どうすればそのような力がつくのでしょうか。

例えば、センター試験に向かう前に、
受験生の裏技の常識として、
下の2つの三角形を覚えさせたいとします。

center-14.png

この2つの三角形に絡んだ問題を何度も演習し、
できるまで課題を与えたり、
再テストを繰り返すといった
トレーニング型の学習法だけで、
果たして定着されるものでしょうか。

センター試験の問題を解ききる力は、
似た問題をたくさんやったという
量に依存するものではありません。

ならば、18°や72°型の三角形について、
正五角形の作図法や黄金比の話題や、
18°と15°から、加法定理を用いれば
3°刻みの三角比の表が作れるという
歴史的な話など、
概念を補強する話題を取り入れた授業を
行うことで効果は期待されるのでしょうか。

私はそれにも否定的な考えです。

既存の知識が不足している中で、
面白味のある授業だけを繰り返しても
問題を解く技能が
磨かれていくとは思えないからです。

私がいいたいのは、センター試験への対策として、
パターン演習やドリル型の学習と
有意味学習を行うことは
決して二律背反ではないということです。

その両者はバランス良く融合すべきであり、
一方に偏る指導でなんとかなるほど
「センター試験は甘くない」と思うのです。

センター試験は、限られた時間の中で、
最大の力を発揮しなければならない、
ある種異常な空間で行われる競争試験です。

それを乗り越えるには
多くの解法パターンを身につけ、
素早く解く技術を磨くことは絶対に必要でしょう。

しかし、そのような学習法の蓄積が、
大局的に問題を俯瞰したり、
問題をメタ認知する力を産み出すかは別問題です。

むしろそれは、日々の授業の中で、
数学に対する向き合い方や、
知識を転移させる有意味学習が
展開されていることが大事ではないかと思うのです。





 

「授業改革先取りセミナー その①」

8月22日に千葉市のTKPガーデンシティで、
「授業改革先取りセミナー」が行われました。

これは、日本教育新聞社と
ナガセ(東進ハイスクール)が主催する
北海道から九州まで、全国12都市を
縦断して行われる、
大規模な高校教員対象の
授業力向上セミナーです。

千葉会場では200名を超える熱い先生方が
参加されました。


私は、全体講演と、数学教員に対する
講座を行いましたが、
ここでは、全体講演でお話したことを
まとめておきたいと思います。

少し長くなるので、3回~4回に渡って
ブログにまとめていきたいと思います。

今回の講演では、7月に
大学入試センターからリリースされた、
大学入学共通テストのモデル問題に対する
評価をして欲しいとのオファーを、
事前にいただいておりました。

どの問題を選ぶか迷ったのですが、
全体会では、数学以外の教員も多いので、
特に式の計算が少なく、
他の教科との関連性もある
「データ分析」の問題を
取り上げることにしました。

私はこの問題をかなり批判的に
分析しました。

そこで、まず冒頭にこのような話をしました。

新しいものを『良きもの』にするのは、
それを進めるイエスマンの存在や
忖度の文化ではない。

むしろ批判的な視座に立つ
カウンター勢力の存在が大切ではないか。

例えば、アクティブラーニングは、
最初は「ラーニングピラミッド」を伴って登場し、
「学習定着率を高めるための
スペシャルなメソッド」として語られていた。

それに対して、「活動在りて学びなし」
「ディープであることが必要」
等々の批判を受け、
それによって教科や校種や職種を超えて
学びを語る様々なテーブルができた。
その中で、タフな議論が進められ、
批判を乗り越えることによって、
「日本型」アクティブラーニングは
かなりオーセンティックな方向に
止揚されていったといえるのではないか。


などと、カッコいいことをいったわけですが、
実は話しをするときに、
目の前に、文科省の専門官の方が
おられましたので、
ちょっと気をつかったのでした(笑)

なにしろ私は、今回のモデル問題には
かなり辛口のコメントを用意していましたから。

では、本題に入ります。

次の図は文科省が提示している
「問題発見・解決のプロセス」です。

千葉図01

これは、だいぶ前にPISAが出した
「数学化サイクル」を
参考にしたものと推察できます。

「数学化サイクル」とは、
日常生活や、自然現象、社会現象に潜む
事象を数学の問題に定式化し、
それを数学の世界で解決し、
現実の世界にフィードバックするというものです。

今回の文科省が示したものは、
ちょっと欲張っていて、
更に、数学自体を掘り下げ、
統合・発展させ体系化していくという
もう一つのサイクルを持っています。

じゃあ、それを踏まえたとすると、
我々は何をすればいいのでしょう。

文科省のHPには、
次のような更に詳しい
ポンチ絵がアップされています。

千葉図02

様々な事柄が網羅されているのですが、
それらからポイントを抜き出して、
以下のように、私なりに
箇条書きにまとめてみました。

【問題発見・解決のプロセスと育成すべき資質・能力】
① 数と式、図、表、グラフを活用し数学的に処理する。
② 帰納、演繹、類推などによって論理的に推論する。
③ 批判的に検討し体系的に組み立てる。
④ 既習の知識と結びつけ概念を広げ、深める。
⑤ 統合的、発展的に考える。
⑥ 日常生活や社会の問題を数学化する。
⑦ 人と交流し合い説明したり理解し評価する。
⑧ 粘り強く問題の発見や解決に取り組む。


少し補足します。

そもそも人は、模範解答を
上から順になぞるような思考はしません。

それをするとすれば、
パターン化された解法を丸暗記し、
その数値などを少しいじったものを
解くことを繰り返すような活動の場合に
限定されるでしょう。

そうではなく、図やグラフ、条件や言葉、
式と計算がグルグルと循環しながら、
思考のゆらぎや混乱が起きる中で、
気づきが生まれ、それを解答として
表現していくものだと思います(下図)。

千葉図03

今後の大学入試でも、
そのような思考の流れを見るような
問いが立てられることが考えられます。

だとすれば、我々は、授業の中で、
このような思考を顕在化し、
表現させるような場を
設定する必要があるわけですね。

また、
「帰納、演繹、類推などによって
論理的に推論する」とありますが、
私はその「など」の部分に、
「仮説設定(Abduction)」
ということも入れておきたいと思います。

千葉図04

アブダクションについて
私の思うことを少し述べておきます。

私は昔、よくコンピュータの
プログラミングを行っていました。

通常は、アルゴリズムを考え、
フローチャートを作り、
それを言語(コード)化していくわけです。

これは演繹的な方法ですね。
でも、だんだん慣れてくると、
ある仮説をもとに、
とりあえず思ったことをプログラミングし、
それを実行したときに生じるエラーから、
プログラムを修正していく
という方法をとるようになります。

そうやって適宜修正をしながら
正解に辿り着こうという方法です。

つまり、アブダクションとは、
結論から逆追いしたり、
要求している答の形から仮説を立てて考え、
失敗体験から学んだり、という、
ある種俯瞰的な視点での
推論ともいえると思います。

今回はここまでにします。

次回はデータ分析のモデル問題を
見ていくことにしましょう。