「私の本棚 ~数学が大好きになるこの一冊~」

図書館前の「私の本棚」
第2弾も私が担当させていただきました。

今回は「数学が好きになるこの一冊」と題して、
私の本棚にある本から
とりあえず何冊かを持ってきて陳列しました。

数学本01LT

数学本02LT

数学本03LT

それぞれの本のキャプションは以下の通りです

●「数学用語と記号物語」
●「授業を楽しくする数学用語の由来」
 (片野善一郎)

「正弦はなぜsinか」
「関数はなぜfunctionなのか」など、
数学用語に関する話題が豊富です。

そして、その語源や歴史的流れを知ることで、
その本質に迫ることができる内容になっています。

授業での話題や、生徒の疑問に答えるためにも、
教師必携の本でもあるかもしれません。

●「博士の愛した数式」(小川洋子)
80分しか記憶が持たない数学者「博士」と、
「私」と「ルート」のピュアで、知的で、
そして切ない愛の物語。

博士の愛した数式はご存知
e^(πi)+1=0 ですが、
このストーリー全体のモチーフとして
「完全数」を中心とした数論の面白さが
取り上げられています。

生徒に読ませたいし、この本を使って
授業を展開するのも面白いですね。

尚、著者と藤原正彦氏の対談集
「世にも美しい数学入門」もお薦め。

●「天地明察」(冲方丁)
江戸時代の天文学者(であり
碁打ちで数学オタク)の渋川春海の
生涯を描いた時代小説。

春海が全国を測量し、
日本の新しい暦法を策定するまでの過程が
見事に描かれています。
関孝和などの和算家も登場しますが、
あらためて、江戸時代の
日本の優れた知性に感動を覚えます。

和算がらみの小説では
「算法少女」(遠藤寛子)もお薦め。

●「赤いぼうし」(美しい数学シリーズ)
(画:安野光雅 文:野崎昭弘)

安野画伯は日本を代表する絵本作家ですが、
数学・科学にも造詣が深いですね。

私は学生時代「数学セミナー」(日本評論社)に
連載していた氏の「算私語録」の大ファンでした。

絵本とはいっても、友人である
野崎昭弘氏という格別の数学者との共著なので、
実は組合せ論や論理に関する
堂々たる数学書でもあります。
巻末に大人向けの解説もついています。

尚、安野氏の絵本では、
「はじめてであうすうがくの絵本1~3」もお薦め。

日本にはこんなに凄い絵本があるのに、
眠ってしまっているのは本当にもったいないですね。

●「数の悪魔」(H.M.Enzensberger 訳:丘沢静也)
数学の本は売れるといっても
たかが知れていますね。
でも、10数年前にこの本の初版が出たとき、
一般の小説などを凌いで
空前のベストセラーとなったのです。

子ども向けに書かれていますが、
数学に落ちこぼれた大人達が、
この本で数学の面白さや楽しさに
目覚めたという声も多かったようです。

数学教師としては、著者の講演を記録した
「数学者は城の中」も読みたいところです。

●「虚数の情緒」(吉田武)
「虚数の情緒」は、表紙に
「中学生からの全方位独学法」とあるように、
中学生の知識があれば
独学で読み進められる構成になっています。

1000ページにも及ぶその内容は
とても深いのですが、
わかりやすい記述と興味をそそる豊富な内容で
読者をぐいぐい引きつけます。

吉田氏の著書では「オイラーの贈物」も名著です。
私は昔、数学科を志望する生徒にすすめていました。

●「数学とは何か」
(R.Courant H.E.Robbuns 訳:I.Stewart 森口繁一)

数学の様々な分野の基本概念が
系統的に書かれています。
数学というと「解析」「線形代数」など分野ごとに、
独立に勉強することが多いですね。
確かにその中で、専門性は磨かれるのでしょうが、
横断的に数学を見渡すことができない
という欠点もあります。

この本は、古典から現代までの数学グラフィティとして、
高いところから数学全体を鳥瞰する本です。

「数学とは何か」に対する
答の輪郭が見えてくるかもしれません。

●「The Mathematical Experience」
(P.J.Davis&R.Hersh)

格調が高く、高校生には難解で
読み進むのが大変かもしれません。
でも、数学とは何かという命題に対して、
正面から大上段に振りかぶって攻めてくる、
ある意味崇高な哲学書でもあります。

各セクションのテーマも詩的で、
文章表現も美しいです。

人気ミステリイ作家(大学の助教授でもある)
森博嗣氏の「笑わない数学者」にも
エピグラフとして引用されています。

「数学の精選話題」や「教授と学習」など
興味をそそる話題も多いですよ。

●「UniversaL PatternS」
 (Martha Boles & Rochelle Newman)
●「Image of Infinity」
 (Ray Hemmings & Dick Tahta)
●「The Surface Plane」
 (Martha Boles & Rochelle Newman)

この3冊は、1992年にカナダで行われた
ICME7(国際数学教育者会議)の会場で
購入したものです。

見ているだけでインスピレーションが湧いてくる、
数学とアートの魅力満載の書です。

●「数学スナップショット」(H.Stainhaus 訳:遠山啓)
この本の初版は1957年なので60年前ですね。
でも、その着眼のユニークさ、
数学の美しさを追求するセンスは
今でも色褪せていません。

例えば、「立ち上がる正12面体」は
私の得意の授業ネタですが、
ルーツはこの本にあります。

尚、訳者の遠山啓の「数学入門(上下)」は
教師にも生徒にも読んでほしい本ですね。


●「フラクタル音楽」(Martin Gardner)
学生の頃、ガードナーの「数学ゲーム」の本を
貪り読んだ時代がありました。

この書は、その「数学ゲーム」からの抜粋版です。
私は、この本に出てくる
「褐色音楽」の話題にヒントを得て、
ハノイの塔の音階を作り、
私のホームページのオープニング曲にしています。

また、盛岡三高の教員時代に
「30個の立体パズル」を作って生徒に出題したところ、
数学の成績が良くなかった女子3人が
奇跡的に解き、大喜びして私に完成したパズルを
持ってきてくれたことがありました。

彼の本との出会いは
自分が数学教育の世界に進むきっかけに
なったようにも思います。

私の目指したワクワク数学の授業の
原点といってもいいかもしれません。

●「「無限」の考察」(足立恒雄・絵:上村奈央)
誰もが「無限」について
考える時があると思います。

無限は神秘で、不思議で、
そして魅力的な概念ですね。

本書は、この「無限」というシロモノを
解析、幾何、集合の3つの数学的視点から
分かりやすく解説してくれます。

書店で立ち読みしたとき、
添えられた絵がとてもステキだったので
思わず買ってしまいました。

この本を読んで、
数学はやっぱりセンスオブアートが
大切だなあと思い、授業の中に
積極的に絵を取り入れようと思うようになりました。

●「アキレスとカメ」(吉永良正・絵:大高郁子)
「「無限」の考察」と同様の装丁、
どちらも講談社からの出版です。
この書は、ゼノンの4つのパラドクスを
図解入りで分かりやすく取り上げています。

それは単なる論理の遊びを越えて、
哲学の世界を展望する読み物になっています。

数学は問題を解く技能を競う学問ではなく、
世界はどうなっているかを読み解くために、
問いを立て続けていく営み、
つまり哲学と言えます。

高校生の時代に、
哲学としての数学を味わって欲しいと思い、
この本をピックアップしました。

●「フラットランド」(Edwin Abbott Abbott ・Ian Stewart)
●「2次元より平らな世界」(Ian Stewart 訳:青木薫)

「フラットランド」は1884年に敢行された科学書。
幾何学に関する数学書であり、
また物理学の古典であり、
また社会を風刺する小説でもあります。

原典を読んだことはないのですが、
2002年にイアンスチュアートの注釈によって
リメイクされたものをピックアップしました。

そしてその後、その「フラットランド」の発展版として
「フラッターランド(2次元より平らな世界)」が登場します。

いやあ、この「フラッターランド」の
面白いこと面白いこと。
一気に読んで、あまりに面白くて友人に貸したら
未だに返ってこないという。

次元というくくりで、数学の全体像を
とても楽しく提示してくれるオススメの書です。

●「見える数学1」(西三サークル)
この本は、「西三サークル」という
愛知県の高校教師を中心とした
数学サークルの面々が開発し、
実践した手作りの教材を集めたものです。

教具や図解などのシェーマは
数学の概念を「見える化」します。

そしてモノを使って楽しく学ぶことで
数学に対する親近感を抱くことができます。

西三サークルの先生方の、
「数学ってこんなに楽しいんだよ」っていう思いが
ビンビンと伝わってくる本ですね。

●「ディオニシウスの耳」(湯川薫)
SF(サイエンスフィクション)はよく耳にしますが、
今はMF(マセマティカル・フィクション)
という言葉もあります。

私はかつて、工学博士の森博嗣の
「すべてがFになる」「笑わない数学者」
などのシリーズにハマり、
シリーズの作品を全部読みました。

本書は、理学博士でもある湯川薫氏の
サイエンスミステリーです。

モーツアルト暗号と呼ばれる楽曲や、
回転楕円体のトリックなど、
数学、物理、音楽の話題が
散りばめられています。
彼の「虚数の眼」も面白いです。

●「数学の不思議」(Calvin C.Clawson)
数学の面白さの一つは、
誰もが取りかかれるようなシンプルな問いの中に、
美しく、不思議で、深くて神秘な世界が
横たわっているということではないかと思います。

この「数学の不思議」は、そんなシンプルで、
知的好奇心をくすぐる数学のトピックスが
たくさん散りばめられています。

そして、それを楽しく味わっているうちに、
数学の世界がどのように進化発展していったかの
概観をイメージすることができると思います。

●「数学と論理をめぐる不思議な冒険」
(Joseph Mazur)

「論理」「無限」「現実」という3つの章立てによって、
数学の歴史的な興味深い話題を取り上げ、
物語的な構成によって、
数学とは何かということに焦点を当てています。

そこに、数学とは
理系の研究者のための学問ではなく、
広く賢い市民になるための教養として
広めていこうという著者の思いを感じます。

●「つながる高校数学」
(野崎昭弘・何森仁・伊藤潤一・下町壽男)

すみません。ちゃっかり拙著を入れました。
従来の教科書の見方、切り口を少し変えて、
高校数学の全体像を見渡そうという思いで作った本です。

それぞれの単元に「エクスカーション」を入れて、
発展的な内容を展望するような構成になっています。


●「フーリエの冒険」(ヒッポファミリークラブ)
ヒッポファミリークラブ(言語交流研究所)のメンバー、
数学についてほぼ素人の集まりが、
フーリエ級数を「自分たちの言葉」で
理解していく過程を一冊にまとめたものです。

このシリーズには他に
「量子力学の冒険」「DNAの冒険」があります。

まさに知の冒険という趣です。
この本から、主体的で対話的な学びが、
楽しさとともに、限界を突破する
強靱さを持つことを感じました。

●「話題源数学」(編集代表:吉田稔・飯島忠)
高校や大学の先生方が、数学の様々分野における
面白そうな話題を綴った教材集です。

ほぼ1~2ページに1話題というコンセプトなので、
とても読みやすいです。
授業でのワンポイントとして使うのもよし、
時々パラパラとページをめくって、
興味ある表題を見つけて眺めてみるもよし、
自由研究のネタ探しに使うもよし、
数学好きには手元に置いておきたい本ですね。

●「ニャロメの面白数学教室」(赤塚不二夫)
この本は、私が以前、
花巻北高校に勤めていたとき、
生徒からもらったものです。

「先生好きそうだから」

といって渡してくれました。
これは赤塚不二夫が
たくさんの数学の書物を参考にし、
2年以上かけて大マジメに取り組んだ
200ページもの作品です。
赤塚不二夫氏のあとがきには
次のように書かれています。

「最初、ぼくは驚きの連続でした。
なにしろ、ただの計算だけの世界だと思っていたのが、
完全な間違いだったからです。
冷たく見える数式の裏側には、
ショッキングなドラマが隠されていました。
何十人、何百人の大天才たちの驚くべき発想!
ゼロの発見と、マイナスの発見。確率の面白さ。
微分・積分の神秘。
どれをとっても興味がつきません。

何でこんなに面白く、スリルに富んだ数学の世界を、
ぼくらの先生は教えてくれなかったんだろう。
数式を書き並べ、
計算方法を教えてくれるだけだった授業を、
こんなに呪ったことはありません。」


まだまだ紹介したい本はありますが
取りあえず今回はこんなところで。


 

岩手巡回の旅

先日の土曜日に、数学の会合がありました。

その中で、K先生から
とても面白い話を伺いました。

K先生は、ゴールデンウィークに3日かけて、
岩手県内33市町村全部をまわる
家族旅行をしたそうなんですが、
その条件がとても面白いのです。

その条件とは

「全市町村をもれなく1回ずつまわって
自宅に戻る」

「同じ市町村を2度通過してはいけない」


というものだそうです。

自己回避型一筆書き、
つまりジョルダン曲線を描きながら
全市町村をもれなく1回ずつ巡回する
ということですね。

K先生によると、岩手県は巡回可能ですが、
宮城県は不可能なんだそうです。

また、岩手でも地図上では可能ですが、
冬場などは道路通行が不可の地域もあり
不能になることもあるのだそうです。

面白いなあと思って、自分も自宅紫波町から
出発する経路を考えてみました。

iwatejyunkai01.jpg

おまけに4色塗り分けもやってみました。

iwatejyunkai02.jpg


移動時間を最小にする経路を考えるのは
「巡回セールスマン問題」といわれる
数学の有名問題につながります。

このトライアルには、
そんな数学的な要素の他に、
地理、地域の産業や観光など
多くの学びの要素が含まれています。

高校生の自由研究にも面白そうですね。

 

数学初任研

5月10日から12日までの3日間、
本校で数学の初任者研修が行われました。

昨年度、一昨年度は理科の初任者研修を
引き受けていましたが、今年は数学。

7名の初任の先生が3日間本校に通いました。

まずは、2日目に行われた本校の教員による
公開授業から見どころを紹介します。

2学年の三角関数の導入の授業です。



サインのグラフをアナログで導入し、
GeoGbraを活用して説明。

クラスから「1,2,3・・・」の声が
自然発生的に起こるところが良かったですね

次に1年生の濱田先生の授業です。
対称式変形についての授業風景です。



生徒と教師がともに授業を
楽しんでいる様子が
ひしひしと伝わります。
「主体的・対話的で深い学び」
が感じられますね。


私は、初日に1時間程話しをしましたが、
その中から2つほど紹介します。

【史上最低のジグソーパズル】

写真のような、3枚のピースからなる
長方形があります。

ssjp-01LT.jpg

これを並べ替えて
別の平行四辺形を作るという問題です。

生徒にやってもらうと、ほぼ瞬時に、
次の写真のような長方形が出てきます。

ssjp-02LT.jpg

ところが2人の先生にやってもらったのですが
なかなか出てこないのです。

「いやあ、大人になって分別を纏うことで、
もともとあった研ぎすまれた感性が
鈍くなったんですね」

などと冗談を言っていたら、
3人目の人が黒板に駆け寄り、
次のような図形を作ってくれました。

ssjp-03LT.jpg

なるほどそうきたか。

確かに(長方形でない)平行四辺形が
更にもう一つできることが判明。

ssjp-04LT.jpg

こんな他愛のない教具でも、
いろいろ面白い展開が考えられそうですね。

その一つとして三平方の定理を納得する
という話をしました。

ssjp-05LT.jpg

ちなみに、この「史上最低のジグソーパズル」は
小沢健一先生(元東野高校校長)から
教えていただいた教具です。


【3つの球】

数学の活用という文脈の中で、
下の写真のような教材を理科の先生から借りて
持っていきました。

3kyu-01LT.jpg

3kyu-02LT.jpg

これが何の教材かわかる人は誰もいませんでした。

理科の先生にそのことを話したら、
理系では地学をやっていないからではないかとのこと。

そっかあ。

さて、これ、何の教材かわかりますか?

実は、地震の震源地を求める原理を説明する教材です。

ちなみに理科では、
「3球が1点で交わる」
「互いに交わる3つの円の共通弦はただ1点で交わる」
ことは自明で出発しますが、数学の立場で、
なぜそうなのかを考えてみることも提起しました。

3kyu-03LT.jpg


最後に、初日の開講式での挨拶で
私が話したことを記しておきます。

研修は、すればするほどスキルが磨かれ
見識が高まる。っていうのは実は迷信です。

県教委指導主事の前でこんなことを話すと
おこられそうですね(笑)。

「~すべき」「~せよ」など
一方向的に与えられることを受動し、
それが内面化されていくことによって、
むしろ能力が減退することだってあります。

これをtrained ignorance(訓練された無能)といいます。

皆さんには、そういう受動的な学びではなく、
持っている力を遠慮なく発揮し、対話し、
アピールし、発信してください。

若い先生の感性やアイデアは私たちにも
大きな力を与えてくれるはずだと思います。



研修から主体性を引き算すれば何が残るのか。
教育公務員特例法22条の精神の根本には、
教師の主体性の尊重がある、
私は、20代から一貫してそういい続けています。



 

「迷い線による外心と内心の話」

先日、「あなたとバスケと数学と」という記事で、
バスケットのディフェンスと
三角形の内心の話を書いたら、
いろいろな方から感想をいただきました。

ありがとうございました。

そこで、今回はその続編として、
「迷い線」によって三角形の
外心と内心を定義してみようと思います。

尚、ここで紹介する話は、
拙著「つながる高校数学」(べれ出版)
に書いているのですが、

その原点は、共著者でもある
伊藤潤一先生(盛岡白百合学園)の実践を
参考にしたものです。

【2つの水場と迷い線】

草原に2つの水場A,Bがあります。

gosin-01.png

ここに生息する動物たちは、
どちらの水場を選ぶでしょうか。

下の図の直線l(ABの垂直二等分線)の
左側に棲む動物はAを選び、
l の右側にいる動物が、Bを選ぶでしょう。

gosin-02.png

すると、l はその境界線ですね。

境界線上にいる動物は、AかBか迷いますね。

そこで、この l を「迷い線」と呼ぶことにしましょう。

【水場を3つにしたら】

では、水場を1カ所増やして、
3カ所にしてみましょう。

下図を見ると、l はAかBかの迷い線、
mはBかCかの迷い線です。

gosin-04.png

すると、2つの直線の交点Pは、
AかBかCかの迷い点ですね。

このことから、Pを通って、ACと垂直な直線は、
AかCかの迷い線ということになります。

つまり、
「A,Bの迷い線」
「B,Cの迷い線」
「A,Cの迷い線」
は1点で交わり、その交点Pは「A,B,Cの迷い点」
(A,B,Cから等距離の地点)と考えることができます。

このことから三角形の外接円の中心は
各辺の垂直二等分線の交点であることが納得できます。

次に、三角形の内心について考えてみましょう。

【2つの川に挟まれた草原】

a川とb川に挟まれた草原があります。

gosin-03.png

この草原に棲む動物たちは、
水浴びするためにどちらの川を選ぶでしょう。

下図の直線 l (角の二等分線)の上側に棲む動物は
a川が近いのでa川を選ぶでしょうし、

gosin-06.png

l の下側に棲む動物はb川を選ぶでしょう。

l 上にいる動物は、aかbか迷いますね。

そこで、この直線 l を「迷い線」と呼ぶことにしましょう。

【3つの川に囲まれた場合】

今度は、a,b,cの3つの運河で囲まれた草原を考えます。

gosin-07.png


ここに棲む動物たちはどの川を選ぶでしょう。

l は「aかbかの迷い線」、
mは「bかcかの迷い線」ですね。

すると、2直線の交点Pと、
2直線a,cの交わる点を結んだ直線は、
「aかcかの迷い線」と考えられます。

つまり、
「a,bの迷い線」
「b,cの迷い線」
「a,cの迷い線」
は1点で交わり、その交点Pは「a,b,cの迷い点」
(a,b,cから等距離の地点)と考えることができます。

このことから

三角形の内接円の中心は
それぞれの角の二等分線の
交点であることが納得できます。

ちょうど、外接円と内接円の関係が、
「頂点」を「辺」に置き換えたものに
なっていることが面白いですね。

 

「あなたとバスケと数学と」

先日、ある宴席で、
ふとしたことから
バスケットと数学の話しになりました。

三角形の内心と
バスケットボールのディフェンスについての
他愛のない内容なのですが、
子どものように一人めっちゃ熱中して
話してしまいました。

ニコニコと聞いて下さった皆様
ありがとうございます。

今から16年前になりますが、
ある雑誌にその話を書いたことがあります。

以下にその内容を記しておこうかと思います。

インラインの原則

「バスケットボールとはボールを
ゴールに入れるスポーツ」

非常に当たり前ですが、
これをバスケットボールの定義にします。

b-fig01.png

すると、この定義から、図1の様に、
オフェンスAがボールを持っているとき、
次の定理が導かれます。

【定理】
AはゴールGに向かってシュートする。
またはAはゴールGに向かって走り込む。

どちらも線分AG上での動きですね。
このことから、Aに対するディフェンスは、
線分AG上に立ちふさがるように
守らなければいけません。

これを、インラインの原則といいます。

従って、Aが図1のX方向にドリブルで進んでも、
ディフェンスはその動きに
構うことなんかありません。

b-fig02.png

また、図2のようにAが速攻でゴールに向かって
ドリブルしているときは、
その選手を追いかけるのではなく、
早くインラインのポイントに走り込むことが肝要です。

ヘルプサイドディフェンス

では、次にオフェンスとディフェンスを
1人ずつ増やして2対2の状況を考えましょう。

今、Aにボールがあるとします。
すると、「バスケットの定義」によって、
次の定理が得られます。

【定理】
① AがGに向かってシュートする
➁ AがGに向かって走り込む
③ AがBにパスをする
④ BがGに向かって走り込む

上で述べた4つの定理を見ると、
守るべき要点は、
線分AG,AB,BGであることがわかります。

つまり△ABGの3辺ですね。

今、ボールを持っているAに
ディフェンスaがついているとき、
Bに対するディフェンスbは
どの地点で守ればよいでしょう。

b-fig03.png

もし、図3のように、bがBに
ピッタリとくっついて守っている
(ディナイといいます)とすると、
定理の③④は防げますが、
②に対しては甘い防御になります。
(もしAがドリブルでaを抜いたとき、
カバーに行けません)

では、どうすれば3つの要点線分
AG,AB,BGを効率よく守ることができるでしょうか。

ここからが数学の話しになります。

△ABGの各辺に対して平等な位置は、
各辺から等距離となる三角形の内接円の中心、
すなわち内心になります。

b-fig04.png

よって、BのDFであるbは
三角形の内心の地点で
守るということになります(図4)。

これにより、例えばAがaを抜いて
Gに向かっていったならば、bはAを守るために、
AGのインラインに入ります。

また、AからBへのパスのラインは、
パスカットを狙いながら、
もし、Bにパスが入ったら、
bはすぐにBの前に出て、ディフェンスを行い、
今度はaが△ABGの内心の位置をとります。

このような守り方を、
ヘルプサイドを守るディフェンスといいます。

内心の定義

ところで、選手はいちいち
△ABGの内心を意識して守る
というわけにはいきませんね。

b-fig05.png

実際、指導をする場合は、図5のように、
bはAを見て、ABとAGのラインの両方を
同等に気を配るということと、
一方で、Bを見て、ABとBGのラインの
両方に気をつけて守っていれば、
よいポジショニングとなります。

ということは、知らず知らずのうちに、
∠Aと∠Bの二等分線上に立つということになります。

ここで、三角形の
角の二等分線の交点が内心であることが、
何と、バスケットのディフェンスによって
説明されたわけです。

内心も重心

バスケットのディフェンスという観点から
内心を考えた場合、
三角形の各頂点に重みを分布させた状態での
釣合いの点、つまり重心と考えることもできます。

b-fig06.png

例えば、図6のように辺の長さが
g>b>a
という場合を考えてみましょう。

このとき、その辺に対応した頂点G,B,Aが
Bのディフェンスの守りの優先順位となります。

b-fig07.png

また、図7のようにA,BがGから遠い位置の時、
たとえGがゴールであっても、
b>a>g
なので、B,AがBのディフェンスの
守りの優先ポイントです。

つまり、Bを守るディフェンスをIとしたとき、
Iの守る位置(内心)は、
実は各頂点に異なる重みがかかっている状態での
釣合いの点と見ることができるのです。

具体的に数学の問題に移して考えてみましょう。

b-fig08.png

今、△ABCが図8のようなとき、
各辺の長さに対応して、
質点の重みが決定するとします。

この場合は、Aに3、Bに2、Cに4が対応します。

このように重さが分布している、
偏った三角形の質点重心を内心と考えるのです。

つまり、Aにボールがあるとき、BのDFのbは、

「BよりもCやAに注意を向けるべき」と考え、
A,Cに寄った点で守ることになります。

これは自然な考えですね。

ヘルプサイドを守るディフェンスは、
ボールマンとマークマンとゴールの重要度(重み)を
瞬時に判断して、重みが大きい方に
シフトすることが意識されれば、
一流のディフェンスと言えるのかもしれません。

では、図8のときの
釣合いの点の位置を決定しましょう。

まず、線分ABを2:3に内分する点に
ABの重心があるので、その点をDとします。

ここで、DとCを結んだ線分を考えると、
Dには2+3=5の重みがかかっているので、
CDを5:4に内分する点が釣合いの点です。

b-fig09.png


図のようなフレーム三角形において、
この点を指で支えると釣り合います。

この点が内心というわけです。

上で示された位置ベクトルの式  

b-fig10.png

を変形すると、  

b-fig11.png

となります。


この式はモーメントを表していることがわかります。

おわりに

ここで述べたバスケットと内心の話は、
あくまで一つの標準的な考え方です。

このセオリーを踏まえて、
様々なバリエーションを
チームとして考えることができます。

例えば、ボールマンのドリブル突破能力が弱ければ、
ヘルプサイドを守らず、
完全に1対1の形にすることもあるでしょう。

また、ボールマンに対するディフェンスを
オーバーシフト
(一方向に強制的に向かわせるような守り)
することで、動きを誘導して、
1:2の状態(ダブルチーム)をつくって挟み込む
というピンチプレイを仕掛ける戦術も考えられます。

私は、20年以上前に、
大野高校でバスケットの顧問をしていた時に、
ゾーンディフェンスとマンツーマンディフェンスを
コンビネーションしてトラップを仕掛ける
独特なディフェンスを考えて、
それをチームの武器にしていたことがありました。

選手が5人しかいないようなチームでしたが、
とびきり素直な子ども達が
私の指導についてきてくれて、
県のベスト8に入ることができたのは
私のかけがえのない思い出です。